3話
「それにしても、酷い有り様やな」
明るくなってから初めて事務所の状態を見た片車輪は、染々と呟いた。昨日の夜に、この現場に居て主に暴れた者たちを知っているだけに、片車輪ははぁと溜め息をついた。
「で、何で1人なんだ?」
「犬神さんと途中で別れたんや。あの人は追ってんやけど、わしは1度報告にと思ってな…明るくなってしもうたし、何となく動きにくいってのもあんねんけどな。この見た目やし?」
髭面強面のごつごつした男が、スーツを着こなす大柄な男が一緒になって何かを探すように、うろうろする姿は目立つのだと、片車輪は言いたいようだ。祐斗は京井と片車輪の組み合わせを想像したのか、ぷっと吹き出した。
「おい、坊主…何やその笑いは」
「え?いやいやいや、確かになと思ってさ。京井さんと一緒じゃ2人共、大きいから目立つよなと思ってさ。あと、俺は谷代だし、管狐持ちの人は湯野さんだよ」
「そうか、谷代君と湯野君か」
君付けで呼ばれ慣れている祐斗は、うんうんと頷いていたが、呼ばれ慣れていない颯介は、目を見開いていた。颯介くらいの歳、30歳も過ぎると君付けで呼ばれる事なんて滅多になく、何となく変な感じなのだろう。
「そう。で、報告って?」
「あぁ、あの人は?ここの社長。それか、ねぇちゃんの兄ちゃんは?そいつら居らんと…谷代君も湯野君も昨日の事って、あんまり知らへんやろ?」
がさがさと買い物袋から、紙コップを取り出しながら祐斗の頷いた。そして、もしかして、片車輪は人の名前を覚えるのが苦手なのかなと思ったりもした。