1話
「うちの玉奥がご迷惑をお掛けして、すみません。何かご相談があって、いらしたんですよね?玉奥は居ませんが、宜しければお話しくださいませんか?…素性も偽らずに」
山上の言った最後の言葉の意味が、颯介にはよく分からなかった。だが、髭面の男には分かったのか、山上を睨んだ。
「ふんっ…むつから本当に何も聞いてないのか?」
「聞いてません。もしかして、こそこそと何かを調べていた事に関係あるんでしょうか?」
颯介は驚いたような顔をした。髭面の男は、微かに顔をしかめた。その反応を見逃さなかった山上は、何か思った事でもあったように、少し悩んでいた。
「湯野ちゃん、むつは最近忙しかったみたいだよな?確かに仕事が立て込んでたが、そんなに大変な仕事じゃなかったはずだろ?報告書を見る限りではな。でも、毎日疲れたような顔して…考え事してる風でもあっただろ?」
山上にそう言われて、颯介は最近のむつの様子を思い出してみた。確かに、仕事の数は多かったが1つ1つは難しいものではない。それに、遅くまでかかるような仕事は1つもなかったはずだ。それでも仕事終わりの連絡が、日付が変わってからの時も多かった。単に、連絡忘れかと思っていたが、そうではなかったのかもしれない。それに、山上の言うように事務所で見掛けた時のむつは、険しい顔をしている時が多かった気がした。
「湯野ちゃん、みやに連絡。今夜、むつの部屋に行く…体調不良だとしても、ただの体調不良じゃない可能性もある」
ぽんっと携帯を投げられ、颯介はそれを受け取った。山上の携帯から、かけろという事のようだ。
「おっさん、あんたは帰らずにここに居て貰う」