1話
朝晩とかなり冷え込むよになってきたある日の夜、女が疲れた足取りでのろのろと街灯の下を歩いていった。
長い髪を頭の上で丸め、古風にも簪を差している。スーツの上から着ているグレーのパーカーは、胸元まで開けてあり大きな胸が余計に強調されている。夜も遅い時間なのか、人も車も通らない道を女は慣れた様子で、歩いていた。ショルダーバッグと手には買い物袋が下げられていて、そこからは牛蒡と大根が刺さるようにして突っ込まれていた。
しばらく歩いていくと、家々が建ち並びマンションやアパートも多い住宅街に入っていった。そして、1つのマンションの前に行くと門の横にある電子ボタンを押して、ロックを開けて肩で押すようにして開けた。門が閉まり、がちゃんっとロックのかかる音を聞いてから、女は自動ドアを潜ってエレベータに乗り込んだ。
買い物袋がよほど重いのか、床に下ろして部屋のある階に着くまでは壁にもたれていた。エレベータが止まり、ドアが開くと女は気合いを入れて買い物を袋を持って、よたよたとドアの前まで行った。
鞄から鍵を取り出し、人差し指で鼻をこすりながら、寒いのか風邪気味なのか、すんっと鼻を鳴らした。
ドアを開け入ると、先ずは床に買い物袋を下ろしてから、壁にある電気のスイッチに手を伸ばした。毎日過ごしている部屋でも、真っ暗だとスイッチの位置が分かりにくく、ぺたぺたと壁を触っていく。こんなに遅くなるなら、玄関の電気をつけてから出れば良かったと女は思っていた。ぱちんっとスイッチをつけ、明るさに目を細目ながら女は、はあっと溜め息を漏らした。
そしてまた鼻をすすり、玄関の鍵をかけチェーンロックをかけると、靴を脱ぎ散らかして、買い物袋を持ち上げた。