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光のポーション  作者: モネノアサ
魔法学園 後等部
81/133

81話 後等部へ進学

 新しい制服に袖を通すと、同じ寄宿舎の風景の中であっても、気分が高揚する。


 初秋の少し高く見える空を窓越しに見上げながら、ニーズと一緒に駆け回ったら楽しいだろうなと眩しい太陽を視野に入れ思った瞬間、流れ込む記憶。いや、思い出す、が正しいのだろうけど……

「レーザー核融合」や「レーザー光プラズマ」と言った単語からそれにまつわる知識と四千兆ワット出力装置など、実際の機械までもが触ったことのある実体のように感じられた。前世の学びの場なのか、仕事場なのか、それらの装置をよく知っているように感じた。

 核分裂で発電すると強い放射性廃棄物が出てしまうが、核融合では放射性廃棄物は極めて少ない。資源も海水からとれる重水素でいい……。そんな知識までが浮かぶ。

 太陽を視野にいれたからだろうか?

 後等部に通う初日の朝に浮かんだことが、人工で作る太陽エネルギーに関する記憶だったのは――。


 シャインは頭を振り、いつもは来てくれるリタの部屋へ自分から出向いた。

 コンコンコン。「たのもー」。通例挨拶事項を終え、扉が開くのを待つ。

 開く扉の向こうから笑顔を見せるリタに、こちらも笑顔で返す。

 朝からリタの笑顔で和んだところで、「今日の髪型はきりっと見えるようにお願い」と注文をおくる。

 リタは早速私を座らせて、髪を触りながら言う。


「リンドウの髪飾りが映えるように、表面を波ウェーブに編み込みとねじり巻き込みのアップにしたら、シャインの長い首と奇麗なうなじが後ろ美人に見えるよね」

「リタがしてくれるアップは、すっきりして見えるのに、こなれてる感じで素敵だから、それでお願いしますっ」


 最後にきりっと指先を揃えた手を頭にびしっと添えてお願いする。こなれている、とか実は言葉自体もよく分かってないのだけど、リタがしてくれるのは、とびっきりおしゃれだから、言葉が先行しちゃうのだ。

 出来上がったのは、ギブソンタックの応用系って感じだった。ギブソンタックはくるりんぱで作る簡単なのに凝って見える髪型のことなのだけど、リタがすると三分程で編み込みやねじり巻きまで入れて完成度の高い髪型になる。

 思わず感嘆の言葉が出る。


「リタって本当何でも器用にこなして、すごいよねぇ」

「それぐらいしか取り柄がないでしょう? 自分の進路が全然決まらなくてシャインのようにはっきりした目標があるほうが羨ましい……」


 あらら? どうしたのだろう。

 朝から前世の仕事ぽい記憶が浮かんだと思ったら、友人が将来の仕事でお悩みだ。


「リタは成績も優秀だよね? 満点とって奨学金まで取ってたじゃない。三年連続はすごいよ? おまけに私、目標っていうほどのものはないし。たまたまスキルと好きなことと家業が同系列だったっていうだけで」


 クレトとリタは三年連続で成績は満点。私は一年の時だけで、後は逃している。

 ほうっと息を吐きながらリタは続ける。


「それでも、したいことが明確だからいいなと思うの。私もシャインを手伝って薬学を学ぼうかなとも思ったのだけど、採集も一人では難しいし、いろいろ考えて止めたの。私のスキルって家庭的だけど社会的じゃないっていうか」

「私、リタのスキルを知った時、何て羨ましいと思ったし、やっぱりリタは私の誇りだって思ったのだけど、まさかリタがスキルや将来で悩んでいるとは思わなかったよ」

「ふふ。悩むのも、出来る幅が広がって欲が出ているからなのよね。たぶんそのまま家にいたら、家の手伝いか結婚の二択しかなかったのだろうけど、今は選択肢が多いから、欲張りになってるみたい。楽しい悩みってことかな」

「それは満点を取るくらいリタが頑張ってるから、でしょう? 成績が悪ければそれこそ選択肢は狭まるよ。まぁ、スキル持ちであれば成績もカバーしちゃうのかもだけど」


 眉毛を下げて困ったように笑いながら話すリタに、この国では珍しい悩みだなぁと漠然と思う。

 貴族と平民に分かれているだけでも、ある程度将来は決まる。そこにスキルなるものもあるから、適正が分かってしまい、自ずと将来を決めやすい状況になるのだ。

 リタは楽器のスキルもあるけれど、学問のほうも頑張っている分、選択肢が広まったのだろう。


「心配しないで。マルガリータさまから領地経営を手伝う仕事をしてみないかって話も頂いてるし、家も一応商売してるから、それが一番今は合ってるとは思ってるの」

「さすがマルガリータさま! もう目を付けられているのね! 王都に取られる前に、いい人材は領地で確保ですかぁ」


 うんうんと頷きながら、私たちは朝食を取るために一階へ行く。ビアンカたちの姿があるなと思ったら向こうも気づき、にこっと笑い挨拶してくれる。


「リタ、シャイン、また同じクラスのようよ。よろしくね」

「ビアンカ、こちらこそ。ヨハンネスと別れてしまって残念ね」

「前から分かっていたことだから大丈夫よ」


 本来なら今日初登校して分かるはずだが、昨夜のうちに情報が広まり、ビアンカたちとも同じクラスになれたことは聞いている。男子がクレト以外、同じクラスの騎士コース。私たちの文官コースはたぶん成績がいいクラスのようで、男子が多い。女の子の友達百人はムリかな。うん、十人頑張ろう。

 笑顔をひっこめて、ビアンカが続ける。


「それより、騎士コースの上級生たちが招集かけられて、魔物討伐に行く話はお聞ききになって?」

「え? 聞いてない……」

「王都とニヴル領の境にある地域に行くらしいの。魔物が多すぎてダンジョンから出て来てるらしいから」

「騎士団は?」

「それで足りないから要請が来たんでしょう? もちろん、そういう時のために訓練しているわけだし」

「そんなにたくさん出たの⁉ 確か一カ月前にも王都付近で大量発生と聞いたけど」

「そうらしいわ――」


 王都では数日前から話題になっていたらしい。

 凶暴で数が多く手こずっているとか。ポーションの要請は聞いてないなと思いながら、下の兄が卒業してしまったから、執事でポーションを任せているホセもいないのだと気づく。

 夏休みに、大量に作って置いて良かった。ホセもそれだけで十分だと思ったのだろう。

 王都付近で一カ月でまた大量発生なんて、思ってもいなかっただろうし。魔物は増えるサイクルがあるのか、たまに大量発生する年があると聞いている。


 魔力が多く必要な魔導服の量産のこともあるし、上級ポーションの改良に取り掛かるべき時がきたのかもしれない。例えば、鎖帷子の魔導服を中級ポーションで作ろうとすると、一瓶で五着も作れない。十倍化してあるとはいえ、ポーションの値段も設定してあるし、値段的にも数量的にも効率の悪さを感じる。

 ポーションで量産するなら、他にも防火などの機能も付けたいのだが、そうすると一着も作れなくなる。


 実は上級ポーションの薬草は見つけて、前の春休みの間に祖母に習い作れるようにはなった。

 薬草を採取できるのは、ニーズのおかげ。森のほうに散歩に出かけ、人が踏み入れない奥深くまで行くことがある。そのときに着陸するのは、決まってトネリコの木の傍。必然と目は薬草を探し、見つけてしまうのだ。

 ただ、αポーションのように改良できるはずだとは思うのだけど、まだ加えるものが見つかっていなかった。

 これは本腰を入れて探すべきだったのだろうけど……。


 三年前に植えたトネリコの木を観察した結果、トネリコの木があるとやはり薬草が育ちやすいらしいと分かり、それを兄に研究・調査してもらってはいる。


 朝からバタバタと昼食の準備をしている上級生の騎士付きの執事たちを横目に、ポーションもこれ以上必要ないように、無事に皆が帰って来るように願う。

 

 その後、後等部初日は無事に終えたが、上級生の騎士たちでは足りずに後等部一年生騎士と、治療魔法をいくつか使える生徒――つまり私、も一緒に翌日から、後方支援部隊として参加することになるとは、この時には思いもせずにいた。

日本では大阪大学の2000兆ワットが2015年当時世界最大。今年初め、お隣の国で4000兆ワットの装置が作られたので、文中の4000兆ワットはそれを参考に描いてます。

ちなみに4000兆ワットは世界で使用される総電力の2000倍だったかになるようです。

読んでいただき、ありがとうございますm(__)m


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