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光のポーション  作者: モネノアサ
王都魔法学園で
76/133

76話 準々決勝

 控室でソファに身を沈め軽く目を閉じる。ムスベル領との対戦前に少し体を休めるためだ。

 その耳に届くのは、実況中継。


「不滅の闘魂たちが戦いの神オーディンのテーマ曲にのって入ってきました! 不動の一位を突き走るヴァナ領ぉおおおお!」


 から始まって、実況がうるさい。急にどうしたのだろうと思ったら、聞こえてくる話によるとベスト六からの実況中継はこれが普通らしい。

 それでも後等部よりはましなのだとか。


 一位ヴァナ領の紹介にも似た中継。四位がグラウンドに入ってきても、どちらかというとヴァナ領の選手へのヨイショ的説明が多い気がする。

 「解説員変えろ」そんな声が聞こえる。私も賛成に一票。


 目を閉じているだけでも体は休めるからと、そのまま目を閉じている。

 一位ばかり攻めているような中継しかしてなかったけれど、本当にヴァナ領が勝ち、すぐに試合は終わってしまった。


 

 三位との試合が始まる。

 これが終われば昼食。

 こういう日の特別メニューは、品数が多かったり栄養のあるものが出る。

 美味しいものが待っている、頑張ろう。私は伸びをして体を整えた。


 実況中継に合わせて会場に入る。中継は三位を褒め称える言葉の羅列。

 アンブル領って確かに地方なんだけど、ね。「レイバ領と二つ合わせてようやくベスト六入りの場に立てた」って説明がどうも……。レイバ領を紹介してくれるのはいいのだけど。


 ニーズに騎乗したまま合図を待つ。

 さぁ、開始だ。

 どんどん進む両オフォンスチーム。

 お互い距離はあるし騎乗しながらだが、下らないハンドサインを送ってきていた顔ぶれを見つけた。

 私は練っていた【風刀(エア・カッター)】を放ち通り過ぎた。後ろで「びっくりしただろー!」って声が聞こえる。当たりはしなかったし、当てるつもりも元からなかったけど、イラつきはさせたらしい。ガッツポーズを取る。


 ムスベル領ディフェンスたちは、私たちが到着するまでに、例の城壁扉を出していた。その前には土壁まで二重に出して、余裕そうなディフェンスたち。

 何しろ、城壁を出した選手はすでに交代していた。複合魔法が使える者が最大の魔力を使ったのだろう。魔力供給は行えないので、交代したのだ。

 卑怯にも見えるやり方だが、私も真似したい。むしろ私向きだ。壁だけ出して、後はまるっとお任せ。なんて素敵にさようなら~。

 

『土壁は俺に任せろ』


 聞こえるのはクレトの声。

 そこに地上のディフェンスからマルガリータたちに向かって、ヒューッと放たれたのは上級魔法の【氷針】!


 上級魔法の氷針⁉

 貫かれる! と思った瞬間――


 バリンッ

 氷針を一瞬で壊し溶かしたのは【爆炎】。


 クレトが土壁を壊すために使う予定だった上級魔法の【爆炎】を使い、氷針を止めたのだ。


 ふぅ。相手の放つ氷針のど真ん中にいたマルガリータが危なかった。

 中継『おおお! さすがムスベル領! なんと上級魔法の氷針を繰り出してきましたー!これで相手は串刺しはまぬが――ええええええええ! な、なんで??』って、中継下手かよ。   

  

 あんまりな中継に気を取られていたら、いきなりニーズが咆哮した。


『ガァォッーーーーーー!!!』


 ビクつく相手チームと召喚獣たち。

 ニーズなんてナイスタイミング!

 これで私たちが壁を壊す間、敵が傍に来ないといいな。


『シャイン、詠唱するなら今だ!』


 マイクから耳に入る声を聞き、魔力を練りながら壁に近付いた私は素早く詠唱した。


「崩れ落ちろ! 本来の姿へ! 【粒子分解パーティクル・リゾルーション】ーーっ!!!」

 

 ごごごごごぉおっ! と音をたてて崩れ落ちる土壁と城壁。

 激しい土煙で視界が悪くなってしまった。ゴホゴホ。

 少し魔力を使いすぎたかな。

 そこに耳に届く声。


『マルガリータ、クレト、今だ! ゴーレムを落とせ!』


 マルガリータたちがハッとする、そのとき。


『ゴォォオオオオオー!』


 かなりの威力の炎をゴーレムに叩きつけたのはニーズ。

 ゴーレムと共にいる守りの生徒がいない。だからゴーレムに火を吐いたのだろう。そういえば、地上戦も三名だったから、その時点でゴーレムに付いてる者がいないことを予想すべきだった。ニーズが賢い。さすがうちの子。


 そう思いつつ、魔力を練る。マルガリータを追ってくる敵たちに矢を放つために。

 相手は矢をを軽く薙ぎ払うが、目的のマルガリータから引き離すことには成功。

 クレトが風刀で他のディフェンスの足止めをしてくれる。フェンも威嚇しながら、飛び回り活躍している。

 ゴーレムに近付いたマルガリータが宙を舞う。


「はぁぁああああ! 喰らえっ!」


 剣がゴーレムの首を捕らえた。

 ニーズの火の攻撃で弱っていたゴーレムの首はあっけなくゴロンと地に落ちた。

 首が転がった傍には、敵を拘束して駆けつけたルカと上級生が肩で息をしていた。

 

 終了の合図が高く鳴る。


 ムスベル領に勝った。


 中継は『信じられません! あの城壁と土壁を一度に壊し、ゴーレムを倒したですと!!?』『カイン解説員、少し落ち着きましょう。勝ったのは昨年六位だったアンブル領、ベスト三へ進出です。おめでとう』『いやいや、何かのまちが――』プツリ


 中継は中断された。

 どよめきと歓声に包まれる場内。


 電光掲示板には試合時間四分二十六秒の文字が光っている。

 もっと短く感じたけれど、それよりも満面の笑みで拳を上に突き出して喜びの叫びをあげているマルガリータに目線を取られる。

 領主の令嬢があれでいいのだろうか?

 陣地を振り返るとベルナルドも全く同じポーズだ。そっくりな兄妹。……何も言うまい。


 対し、唖然として青ざめ気味なのは相手ムスベル領の生徒たち。

 礼をするために中央に揃うが、彼らはショックが大きいように見られる。三位に入れないことがそこまで唖然とすることなのだろうか。

 観客席の生徒たちはほとんどが喜びの歓声を上げている。

  

 礼をした後は救護員のいる控室へと歩みをすすめる。

 私はディフェンスの仲間のもとへ。

 中継をずっと聞いていたわけではないが、かなり攻められていたようだから、一年生のエリアスたちが心配なのだ。

 ルカたちが無事なのは分かっていたから。

 中央に揃ってはいなかったが、六名全員姿が見えるってことは無事なのだろう。ホッとする。  

 エリアスたちに近付いて「ぎゃぁ! ケガしてるじゃない!」と声をあげてしまった。無事かと思ったら、腕から手さきへ血が伝わりポタポタと垂れている。ケガしているから、その場に留まっていたのに、礼よりも先にこちらへ駆けて来るべきだった。


「ポーションは?」

「届く前に試合が終わったんだ」


 初級治療ポーションは一本ずつ携帯してるはずだ。一本使ってもまだ血が止まらなかったのか。私は携帯していたポーションを腕をまくり上げ、傷口にかけた。消えていく傷。初級ポーションで治る傷で良かった。血が伝うぐらいだからもっと深いかと心配した。 


「ヨハンネスは最初にやられてね。上級ポーション飲んで、さらに中級ポーションをかけられていたようだから、僕なんてましなほうだよ。ありがとう」


 痛かっただろうに。にこにこしているエリアス。ベスト三進出が嬉しいのだろう。


「他にけがをしている人は?」

「大丈夫。ヨハンネスもシャインがうるさ、いや、シャインの言う通りにポーションを使った後は、交代して休んでいるはずだし、大けがは彼だけ」

「大けがはってことは、小さなけがの人はいるの?」

「大丈夫だって。ほら、救護兼控え室へ行こう」


 笑いながらエリアスたちに促されて控室へ行った。

 救護室だから、ちゃんと治療の先生もいるし、ポーションもある。それを見てホッとする。

 私は先に礼を言うべき上級生のもとへ行く。



 試合前にベルナルドたちに提案したことが、監督役を付けることだった。

 競技だと当たり前のようにいる監督だが、前等部の領地対抗戦に監督を付けるという概念はあまりなかったようだ。でも、上位三位の領地は監督がいる。領の騎士団から派遣されるという。

 私たちが、自分たちでコーチ役をしてもいいのではないかと伝えたのだ。


 そこへ攻守二つに分けて二人を推薦したのはランバートだ。

 三年生の補欠メンバーだが、全体を見渡す広い視野や、とっさの判断といったものに優れていると二人を推薦。

 その二人も快く受けてくれて、練習もないぶっつけ本番でコーチ役をまっとうした。耳飾り型通信機のマイクで指示を出してくれたのは――

 

「セレスティノさま、チュノさま、お二人ともコーチ役ありがとうございました」

「セレスティノ先輩の的確な指示のお陰で、上級魔法を避けれました!」

「チュノさまの声でゴーレムも倒せたようなものですわ」


 私がセレスティノたちに声をかけるのを聞いて他の仲間たちもそれぞれお礼を述べる。


「そ、そんなにお礼を言われると照れるよ」

「そうだよ。僕たちは言われたことをしただけだよ」

「いや、セレスたちは十分よくやってくれたよ。ディフェンスが四分以上もったのは、セレスのお陰だし、ゴーレムも倒せたとマルガリータが言うのをみるとチュノの指示も的確だったのだろう? 監督に向いてるのかもな」

「さすがは、俺が見込んだ二人だな」


 最後ベルナルドの偉そうな発言は要らないけど。 

 ランバートが二人を褒めるのを見ると、二人は本当に指導や伝達の資質があるのかもしれない。


「グラウンド上にいると敵もいるから見ずらかったり視野が狭くなりがちだけど、横からなら全体を把握しやすかったよ」

「そうだね。春休みも一緒に練習していたから一年生の名前から、得意なことまで覚えていて助かったよ。指示を出すのに役立ったから」

「コーチがいるだけで、こんなにも楽だとは思わなかった。ゴーレムにも指示を出して、他のメンバーにも指示を出さないといけないから、結構負担だったんだよ」


 セレスティノたちが話す言葉への感想を述べるベルナルドは、両方への指示を出していたから、確かに負担だっただろう。


「上位領地しかいないけど、普通は一人の監督だろう? それを学生とはいえ、攻守チームそれぞれに指示を出してくれるコーチがいたからね。今まで監督の良さなんて知らなかったけど、学生でも十分助かるよ」

「完全な監督役まではいかないだろうけどね。でも、セレスとチュノに適正があったのは幸いだったな。本当、二人はすごいよ」


 コーチ役をした二人は照れてるけれど、指示をもらった生徒たちはとても喜んでいる。指示を出してくれる人がいるのはまだまだ戦いになれない生徒たちにとっては心の拠り所にもなったのかもしれない。

 ベルナルドが続ける。


「あとは、ゴーレムを倒したマルガリータだな。よくやった! オフェンスはチームワークも良かったのだろう?」

「お兄さま、クレトが上級魔法を使ったのですよ! まだ一年生なのに! そのおかげで助かりましたわ」

「それはすごいな! クレト、何の上級魔法を使えるんだ?」

「え……、火です」

 

一人控室に静かに座っていたクレトをベルナルドたちが囲んでしまった。

 これは質問攻めにあうな。

 私はそっと席を移した。

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