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エッセイ(非)創作論

物語が書けないわけ

作者: 湯田久印

こういう話は活動報告でやろうかとも思いましたが、ものは試しでエッセイとして投稿してみることにしました。

 突然ですが、私、湯田久印はストーリーのあるものを書くのが苦手です。

 作家に憧れていた時期は結構長かったのですが、肝心の話を考える能力がないことに気付くにはかなりの時間がかかりました。


 現在(2017年2月7日時点)連載中の『兄妹のヰタ・セクスアリス』はストーリー的な起伏を捨てて性にまつわるウダウダと考察に特化することでようやく書けた作品です。

 ですから、先人たちが積み上げてきた物語作りのメソッドは私にはあまり役に立ちませんでした。そういう方法論はあくまで形式の作り方ですが、いくら形式を仕立ててもそこに注ぐ中身を思いつかないからです。


 もちろん、人の能力には個人差があるので、すべての書き手志望者が同じところで悩んでいるわけではないでしょう。私が簡単だということを難しいと思い、私にとって難しいことが片手間にできるという人もいるでしょう。だから誰もに同意・共感していただこうとは思いません。

 その上で先にお断りしておきますが、私と同じ悩みを抱えている人にこれからの話は何の参考にもならないかと思います。私自身が答えを持っていないからです。


 作品を批判する常套句として「中身がない」「薄っぺらい」というのがありますが、そもそも作品としての体裁を取って仕上がっている時点である程度の中身はあります。そしてそれを考えるのが実は大変なのです。


 物語を作るというのは、たとえば主人公が戦いで活躍するでも頭脳で活躍するでもハーレムを作るでもなんでもいいんですが、そういう方向性に対する見通しがあって、そちらへ進めるためにピースを配置して(みち)を築くものではないかと思います。私が苦手なのはそこです。


 例)「男主人公がチート能力を得て、チョロいヒロインと出会い、ハーレムを築き、敵を倒す」


 これだけでもれっきとしたストーリーであり中身です。


 仮にハーレムを目指して何人かのヒロインのキャラを考えたとします。断片的に主人公とヒロインの出会いとか会話とかはたまた恋愛イベントだとかラッキースケベだとかの場面も考えたとします。そういう一場面だけなら私にも書けます。でもそれでどこへ向かって展開するのか。つなぎ合わせてストーリーにして、適当なところでオチをつけねばなりません。これが難しい。

 世の中に出回っている駄作の大半はそういう意味で「最低限のストーリーはできているけれど、腕が悪い」ものでしょう。少なくとも商業作品であれば、それが出版されるためのほぼ最低要求だからです。


 さらに、上の例だと「チート能力」で活躍するという部分も、これはこれで大変です。

 いくら主人公がチートで無双する俺TUEE作品であっても、そのチート能力の使い方にいろいろな広がりがあったり、読者の予想を超えるハッタリを効かせたり、はたまた苦戦するという方向で盛り上がることはなくても活躍の仕方が痛快だったりと、たくさんの作家がさまざまな魅せ方を工夫しています。

 主人公が強すぎてあっけなく退屈なくらいに見える作品であっても、受ける作品には相応の独自な工夫が光っています。


 ここでも、世の中に出回っている駄作を見ると、そこのところの工夫までは必ず存在しています。ただその質が低かったり、それを魅せる技術が下手だったりするだけです。でも私にはその工夫の着想がありません。


 いくら私でも時々くだらないネタは思いつきます。

 たとえば「もし目からビームが出せるようになったら」というネタを考えたとします。

 人体くらいなら瞬時に焼き切れるビームです。しかも正確に視界の中心に飛ぶので狙いは正確です。銃よりはるかに強力そうです。でも現行の法律だと目からのビームで狩猟をすることは許可されないかもしれません。

 逆に殺傷力がありすぎて暴漢を取り押さえるとかに不向きそうです。やっぱりこれが役に立つのは戦場でしょうか。あるいは工具の代わりになるでしょうか。ただ暴発しないか心配です。こんな能力を手に入れてしまった主人公はどんな人生を送るハメになるんでしょうか……


 私に思いつくのはここまでです。これをどうストーリーに仕立てたらいいのか、まったく分かりません。


 仮にストーリーは「主人公が異世界で活躍してハーレムを築く」という定番を借用して、「目からビームを出す能力」というアイディアと組み合わせるとしましょう。

 でも目からビームを出す能力一つで主人公をどう活躍させましょうか。倒して功績になるほどに強く、なおかつ主人公に倒せる敵ってどんなのでしょうか。目からビームだけで退屈にならないためにはどんな展開にすればいいでしょうか。

 先に「工夫」と言ったのはこういう点のことです。これがなければストーリーはストーリーにならないと言ってもいいでしょう。


 ですから、たまにプロの作品が「この設定は素晴らしい」「アイディアに驚かされた」等と基本アイディアの部分を褒められているのを見ると、馬鹿にされてるんじゃないかと思ってしまいます(しかも、いくら読んでも上で言ったような細部の工夫ではなく、「目がビームを出せる主人公が活躍する」レベルの基本設定のことを言っている)。いや、もちろんそう評している人に馬鹿にするつもりはないのでしょうが。


 まあ趣味で書いておられる方々の中には、自分の作品独自の売りがあるかどうかなんて気にしない、ありがちでも独自に魅せる工夫なんかなくてもとにかく書いてみる、という方もいらっしゃるでしょう。それはそれで構いません。ひょっとすると自分でも気付いていない特色が評価されることがあるかもしれません。

 ですが私は「これじゃあ見所がないな」と自分で見切ってしまって書けません。いわゆる眼高手低です。


 時雨沢恵一さんのライトノベル『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。』の中に、プロの作家を目指して新人賞に投稿している人たちを「作家志望者」とすると、その作家志望者の何倍もの数の「小説を書きたい、作家になりたい」と言いつつちゃんとした小説の体裁のものを書いてもいない「作家志望者志望者」がいるという話がありました。

 この区分で言うと湯田久印は「作家志望者志望者」のさらに手前、もう志望も諦めたタダの人です。そんなタダの人でも断片的なネタを思いつきはします。でもそれだけでは出発点にすら立っていません。


 とまあ、ここまではただの書けない人の愚痴なんですが、そんな私でもストーリーを放棄することで書けたものがあったりします。発想の転換は大事です。

 それが成功しているかどうかは皆さんの評価に委ねさせていただきますけれど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分には、とても興味深い内容でした。 自分もまた10年以上、断続的に物語を書いてはいますが、今でもなお、作品ごとに作り方に悩む有様です。 てんでバラバラな、つながりのない、エピソードは、思…
[一言] 本題とは全く関係ないところでつっこみ。 もしも目から出るのが殺傷能力を持つほどに強力なビームであった場合、まず真っ先に目からビームを出した人が失明します。
[一言] コメに返信有難うございます。ネタがないのに書こうと苦闘するその気持ちはよくわかるという湯田様のお言葉に勇気を頂く思いです。私は書きたいのです。漠然としたお話なら思い描けることもあります。でも…
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