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決断(八)

「ふーん、真吾はその話に納得して尻尾を巻いて逃げて来たと?」

 僕の正面に座る紗千がシェイクの入ったMサイズのカップを片手に悪戯っぽい表情で笑う。

 時刻は十九時過ぎ、あの後、連絡を取り合った僕たちはいつものファストフード店で合流していた。店内は繁盛時だからなのか、結構な人で溢れているが幸い適当なテーブルに腰を下ろす事が出来た。

 四人掛けのテーブルに向かい合うように座り、米蔵さんから聞いた事を話していたのだが、彼女のリアクションは先程の通りだった。


「別に尻尾を巻いても、逃げても無いけど」

 僕は少しだけ怒気を込めて言うと、包み紙を開いてハンバーガーを一口かじった。

「最初は趣味の悪い冗談かもって僕も思ったけどさ、米蔵さんが僕にそんな事言っても何の得も無いだろうし」

 トレーの上に置いてあるフライドポテトを一つ放り込む。

「でもさ、嘘吐うそつく人って自分に何のメリットが無くてもくよね?」

「そうかもしれないけどさ、米蔵さんがそういう人だとは思わない。それに一応、紗千の上司でもある訳でしょ?」

 紗千は、シェイクのカップに刺さっているストローを咥えながら、

「まあねぇ」

 なんて、興味無さそうに呟いた。


「で、どうしたら良いと思う?」

 しばらくお互いに食事を黙ってしていたが、僕が耐えられなくなり尋ねた。

「それ、私に聞いちゃうの?」

 紗千はまた笑って言う。

「いやだってさ、いきなりお前消えるよ?って言われてるんだよ?どうしたら良いかなんて簡単に決められないでしょ?」

「まあ、そうかもだけどさ。自分の運命は自分で切り開いて行くものでしょ?」

 同じ年なのに、こういう時は少し年上っぽく振る舞う紗千が少し可笑しい。

「自分の運命を自分で切り開け無かったからここにいるんじゃない?」

 僕は何があってこの世界に来たのか覚えていないが、この世界にいる以上、どこかで命を落としたという事になる。つまり、運命を切り開けていないのだ。しかし、紗千がこの世界に来た理由を知っている以上、簡単に言って良い言葉では無かったとすぐに後悔した。

 だが、僕のそんな後悔は杞憂に終わる。

「そうかもだけどさ、自分が何をしたいかとかそういうのはあるんじゃないの?」

 紗千はしっかりと口調で言う。そんな前向きな彼女を見ると、心残りを無くしたというのは本当なんだと改めて気付かされる。それが嬉しくもあり、少し不安でもある。


 店内の喧騒の中、僕は不安を拭うように、

「僕は紗千と一緒に居たいんだよ」

 彼女の目を真っ直ぐ見つめて言った。

「バカぁ」

 紗千は照れ臭そうに呟くと、

「とりあえず、今日のところはその話止めにしてさ。明日、自転車で海行かない?」

「例の二人乗り?」

「うん、行く前に自転車調達しなきゃいけないけど、それは割り勘ね?」

 彼女が楽しそうに笑うのを見ると、心の中にあった不安が少しだけ取り除かれているような気がした。


「でも、最後の晩餐というか。最後の思い出にならない事を祈っておかないと」

 僕が自嘲気味に言うと、

「だから、今日と明日はその話ダメ!」

 潤んだ瞳で凄まれても全く恐くない。

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