決断(六)
「それは、元いた世界に戻るに決まってるだろ?」
米蔵さんの言葉を聞いて僕は喜ぶが、
「最後まで話を聞かんか」
彼の右手が僕の目の前でゆっくりと左右に揺れていた。
「元いた世界に戻るといっても身体は当然、もう既に残ってない。だから、新しい身体の中に入る事になる。一般的に言う輪廻転生とか生まれ変わりとか来世とか好き勝手付けて呼んでるが、そういうことだ」
そこまで説明されれば、さすがに僕でも分かる。仮に二人で消える方を選択したとしても別に一緒にいられる訳では無いのだ。僕の推測が正しかったのは、次の米蔵さんの言葉ですぐに分かった。
「でだ、その時点でお前さんら二人の関係がここに居る時と一緒だとは限らん」
やっぱり。僕は肩を落とし、俯いてどうしたら良いのかを考える。
「でもな、全く無関係な間柄って事にはならん」
予想外の言葉に頭を上げると、
「この世界でお前さんら二人が出会ったのは何かの縁なんだろうな」
コーヒーを啜りながら米蔵さんは店の壁に目をやり、遠くを見つめる。
「仮に生まれ変わった場合は、今みたいな恋人同士という事が絶対にあるとは言えんが、少なからず関係は繋がってるはずだぞ?もしかしたら、親子なのかもしれんし、兄弟かもしれん。近所の人という繋がりになるかもしれんが、少なからず繋がりはあるんだよ」
「――さすがに記憶は?」
「それは無理だな。ほとんどの人間が覚えとらんと思うぞ?」
僕はこの世界に来る前の記憶をほとんど無くしている訳だから、ここから更に元の世界に戻る時に記憶が残っていたらそれは、それで無茶苦茶な気がしたので、そこにはあまりショックを受けなかったが、
「あれ?でも、紗千は元の世界の事、全部覚えてたんですよね?」
米蔵さんは、一瞬間を空けて考えてから返事をし、すぐに表情を変えて、
「――確かに、何にも覚えとらんかった坊主に比べたら、まだ紗千の方が覚えてる可能性はあるかもしれんなあ?」
言って、コーヒーを飲み干すと、二人だけに聞こえるボリュームで話していた音を一気に上げて、高笑いを上げた。それに驚いたのは向こう側で話をしていたあの女性と千広さんで、特に千広さんは、物凄く嫌そうな顔で米蔵さんの事を睨み付けていた。
そんな三人の様子を横目で眺めながら、僕はしばらく無言のまま考えた。
考えて、考えて、考え抜いて一つ結論を出した。
「紗千と相談してからでも良いですか?」
大事な事をズバッと決められないのは、ヘタレな証拠かもしれないが、やっぱり紗千にも意見を聞きたかった。




