決断(五)
女性が席に着くのを見て千広さんが立ち上がり、店の奥へと消えて行く。
きっとコーヒーを入れに行ったんだろうとすぐに分かったが、米蔵さんと話の続きをしたくてその場を動けずにいた。しかし、目の前で俯く女性が入って来てしまったせいで先程の続きを少々し辛くなってしまった感は否めない。
そのまましばらく無言の時が過ぎると、千広さんがコーヒーを四つお盆に乗せて現れた。僕はその様子をボーっと眺めながら、今日はちゃんと米蔵さんの分まで用意したんだなと感心した。
一人ずつ目の前に置かれていくコーヒー。その湯気越しに女性はゆっくりと口を開いた。
「私、何も分からないままこのお店を訪ねてしまったんですけど」
多少、困惑しているのが表情で分かる。
彼女の話を聞こうと、そちらへと視線を移すと、違う方向から言葉がやって来た。
「お嬢さん、良ければこっち側に座りませんか?」
それは米蔵さんで、
「ここの店の店主はこの男なんだよ」
そう言って親指で差すと、
「だから、こっち側に座って相談したい事を聞いて貰ったらいい」
女性は黙って頷くと、二人はゆっくりと席を交換した。
別にそのままでも十分話は出来たはずなんだけどな。と、思ったが米蔵さんは、どうやら先程の話の続きをする為にわざと席を替わってくれたようだった。そして、隣でぽつりぽつりと話し始めた女性には聞こえないように小さな声で、
「坊主、お前をここに縛り続ける事も出来なくは無いんだけどな?」
僕は少しだけ顔を近付けて、
「縛り続ける、ですか?居させ続けるとか置いておくとかじゃなくて?」
「まあ、詳しくは言えんが、ちょっと特殊なケースになるんでな?」
米蔵さんはコーヒーに手を伸ばし、
「選択はたくさんある方が良いとは思うが、儂が今、思い付くのはここに残るのか、それとも消えるかの三択だな」
どう考えても二択なのだが、
「どうして、三択なんですか?」
そのまま聞いてみた。
「一人で消えるか、二人で消えるかだ」
僕が今まで出会った人達で言えば、一君は一人で消えた。そして、百瀬さんと市川さんは二人で消えたんだろう。もしかすると、九十九兄弟も二人で消えてしまったのかもしれない。
つまり、僕が二人で消えるを選んだとすると、きっと紗千と一緒にという事になるのだろうが、
「二人で消えた後はどうなるんですか?」
二人で一緒にというのは、有難いのだが、僕たちにとってはその先が重要なのだ。




