決断(二)
米蔵さんは、恥かしがっている僕など気にもせず頭を下げた。
なぜ、急にそんな事をされたのか全く理解が出来ず、
「ど、どうしたんですか?突然」
尋ねた僕に、
「いやな、まあ、この話は坊主が一番詳しくなってるような気がするんだけどな」
米蔵さんはゆっくりと口を開いて、そう前置きをすると、
「紗千の奴は結構難儀な過去を背負ってここに来てるんだ」
「はい、聞きました」
「そうか、じゃあ、あいつの心残りも知ってるな?」
尋ねられ、あの時の事を思い出すが、自分の口から簡単に言えるような事では無いので、僕は分かっていながら口を噤んでしまった。それに気付いてくれたのか、
「ああ、ああ、言わんで良い」
そう言って一息吐き出すと、
「あいつは犯人を自分の手でどうにかしたいと思ってたらしいが、どうやらそれを坊主が止めてくれたみたいだ。儂もあんまり無茶はして欲しくなったんでな?坊主にちゃんと礼を言わにゃいかんなと思ったんだ」
言い終えると、再び頭を下げられる。
「僕も米蔵さんと同じで紗千にあんまり無茶はして欲しく無かったんですよ。それに大好きな人が復讐の事ばかり考えてるなんて、なんか寂しいじゃないですか?だから、これからは二人でたくさん楽しい思い出を作りながら生きていこうかな?って、だから頭下げないで下さい。紗千の為じゃなくて僕の為なんで」
スッと言葉が出て来たけれど、よく考えると少し痛かったかな?と、思うと同時に恥ずかしさが再び沸いて来る。
「いやいや、しっかりした坊主だ。これなら紗千は安心して任せられるな」
まるで父親から許しを得たような言葉に驚き喜んでいると、
「ただな」
彼は、神妙な面持ちで言葉を続ける。
「今回の事で紗千の奴は完全に心残りを無くしてしまったんだ」
そう突き付けられるが、意味が分からずに黙ったまま聞いていると、
「心残りを晴らした人間がどうなっているかは、坊主も知ってるだろ?」
僕が今まで仕事で知り合った人達がことごとく僕の前から姿を消しているとしか分からないが、
「あの、もしかして居なくなっちゃうんですか?」
米蔵さんは、黙ったまま首を縦に振った。
「え?じゃあ、紗千も?」
「まあ、待て。紗千の場合は心残りを晴らした訳じゃ無く、心残りを無くしたという感じになるか?」
「じゃあ、大丈夫なんですか?」
「さあな?ちと特殊なケースになってるからなあ。どうなるかは儂も分からん」
僕は言葉を失った。




