加速(六)
僕はどこまでヘタレなのだろうか、自分自身が嫌になる。
男だったらストレートに告白して、もしダメだったとしても笑顔で相手を見送るくらいの気概が無いといけない。相手に自分と付き合うのが嫌じゃないのか?と、尋ねている時点で世の中の半分くらいの女性は、『そんな男は、ちょっと無理かな』なんて断られてしまうだろう。
幸い、僕の目の前にいる女の子は、そういうタイプの女性では無かったので、笑顔で言葉を返してくれた。その笑顔に答えるにはこうするしか無いんじゃないだろうか?
「今まで仕事で色んな人の依頼に協力して来たけど、紗千ほど力になってあげたいって思った人はいないんだ」
だから、
「だから、こんな僕で良ければ付き合って欲しい!ううん、付き合ってください!」
と、同時に頭を下げる。
「はい。こんな私で良ければ、喜んで」
下を向いてしまっているので、彼女がどんな表情をしているのか見ることは出来なかったけれど、声はとても嬉しそうに弾んでいた気がした。
それからしばらくの間、歩道橋の上で立ったまま雑談に花を咲かせた。
お互いの仕事の事から始まり、二人が覚えている楽しかった思い出。と、言っても僕はほとんど何も覚えていないのであまり話せる事が無かったのだけれど、紗千からデートに誘われたあの日に、ふと思い出した英語の教科書に載っていた英単語の『date』の話をした。特別面白い話では無いし、モテない僕の思春期のしょうもない話だったのだけれど、紗千は楽しそうに聞いてくれた。
いつまでもそんな話を聞かせておく訳にはいかないので、
「そういえば、自転車の二人乗りはどうしようか?」
以前、話題に上がったこの話を上げてみた。
「あ!やりたかった事?」
物の見事に食い付いた。
「二人乗りの自転車で海とか行きたいな」
紗千は遠く、その視線の先にあるだろう、ここからでは絶対に見る事の出来ない海を見つめて呟く。
僕は海と言われ、咄嗟に彼女の水着姿を想像するが、すぐに現実へと連れ戻される。
「私のやりたい事は自転車の二人乗りで海に行く事で良いんだけどさ」
「あれ?何か付け加えられてる気がするけど、僕も海には異論無いからスルーで」
僕の返答にクスッと鼻を鳴らして笑った紗千が、
「真吾は何かやりたい事ないの?」
尋ねるが、すぐに口を開き直して、
「あ、前にデートもやりたかった事の一つって言ってたけど、それはこれからいくらでも出来るから無しでね?」




