加速(五)
「私も真吾と一緒に居るのは楽しいよ。でも、昨日もきつく当たっちゃったし、君が辛いんじゃないかな?」
僕は首を振って、
「昨日の事は吃驚したけど、ちゃんと理由話してくれたから大丈夫だよ。なんかとんでも無い理由で怒られたとかなら僕も納得しないだろうけど、こればっかりは紗千が怒るのも無理ない事だからね」
「真吾はやっぱり優しいね」
そう言って下を流れる車に目を落とす。
「今日もね、ここで下を通る車とか歩道を歩いてる人を観察してたんだけどね」
「それは、やっぱり例の人探して?」
僕の質問に彼女は笑って、
「何?その言い方。ちょっと聞いた事あるような気がするけど」
言った。が、すぐに真顔へと表情を変え、
「この世界にはいないかもしれないって言うのはずっと思ってたんだけどね?そんなに都合が良い事なんてある訳無いし、そろそろ辞めようかなって思ってたんだけど。なんか、癖になってるみたいでね?」
僕は頷きで相槌を作ると、ふと思った事を告げてみる。
「あのメモ帳は使ってみたの?」
それは以前、紗千が見せてくれた千広さん達の商売道具である、人を探せる魔法のメモ帳のこと。
思い付きにしては良い案だと思ったが、
「うん、ダメだったね」
紗千の答えはNOだった。
「何も覚えてない僕が言うのも、また紗千を怒らせちゃうかもしれないんだけど」
そう前置きして、僕の思ってる事を彼女へと伝える。
「犯人はさ、きっと向こうの世界で罪に合った罰を受けてると思うんだ。紗千が悔しい思いをしてるのも復讐したいって思う気持ちも分かるけどさ、せっかくこういう世界にいるんだから、もう少し気楽に楽しく生きてみない?」
彼女からの返事が無いので、
「多分、僕が何も覚えてないから言える事なんだけどね」
そう付け加えた。
やや時間を空けて、紗千が口を開く。
「気楽に楽しくってのはさ?真吾と付き合うって話?」
その笑顔は僕をからかうような表情で、『付き合う』という言葉を聞いた僕の慌てる様子を楽しそうに見つめている。
「いや、なんで急にそんな?」
「私の力になってくれるんじゃないの?」
そう言われ、
「――僕はお付き合いしたいよ。それが紗千の力になるって言うなら是非お願いしたいけど、紗千は嫌じゃない?」
「嫌って言うか、真吾が私の嫌な思い出、忘れさせてくれるんでしょ?」
今日一番の笑顔で言った。




