加速(四)
なんて返したら良いのか分からず黙っていると、
「私と初めて会ったのってここだったでしょ?」
質問される。
「うん、僕は全く身に覚えが無かったのに話し掛けられたから、すごい吃驚したのを覚えてる」
彼女はそれを聞いて少し思い出しながら笑う。しかし、すぐにその笑顔を戻すと、
「あの日、別に真吾君に会う為にここにいた訳じゃないんだよね」
不意にそう言われ、そこまで自惚れているつもりは無かったけれど、多少のショックはあった。それが顔に出ていたのか、こちらの表情を窺った紗千はすぐに、
「あ、違うよ。別に悪い意味じゃ無くてね?なんて言うのかな、違う用事で居たんだよって事を言いたかったんだけど」
少しだけではあるが慌てる彼女というのを見るのは新鮮だった。だから、ショックよりもそちらの方が上回り、
「気にしてないから大丈夫だよ。話続けて」
いつもの彼女のような自然な笑顔を作って向ける。今度はそれにつられる様にして紗千が笑い、
「ありがと」
優しく返す。
そして、本題である話に入った。
「真吾が気になってる通りなんだけど、元々はね、この世界に来る前の事が発端なんだ」
深い溜め息にも似た息継ぎを一つ挟むと、
「私と私の家族は、自宅に押し入った強盗に傷付けられたの。私以外の家族は怪我の大小はあったけど、命に別条は無かったんだよね。で、私一人だけ運が悪くて死んじゃった」
彼女の瞳から涙が零れる。それを指で拭って、
「もし、その時の犯人がこの世界に居たら今度は私が命を奪ってやろうって思って、ずっと探してるんだけど、そもそもここに居るかどうかも分からないんだよね」
記憶が残っているからこそ辛い事があると言っていたのはこの事だった。確かに前の世界の記憶が無ければその事件を思い出す事も無く辛いことなんて何も無かっただろう。そして、あの発言の意図は犯人への復讐から出たもの。それすらも記憶が無ければ思い付く事も無かった――
「でも、さすがにそろそろ疲れちゃった」
いるか、いないか分からない相手をこの広い世界で探し続けるのにも限界はあるだろう。確実に居ると分かっていれば続ける気力も出て来るだろうが、いないかもしれないというのは辛すぎる。
「また、こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、やっぱり僕は紗千の力になりたい!」
「探すの手伝ってくれるの?」
「それは無理。でも、毎日一緒に楽しく過ごす事は出来ると思う」
「それって私の力になってる?」
紗千は涙を瞳に溜めながら再び笑う。
「あー、僕が一緒に居たいだけってのはあるけどね」




