表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/117

加速(三)

 僕はゆっくりと足を進め、二十メートル程先にいる紗千へとゆっくりと近付いて行く。

 もしかしたら彼女は僕の姿が目に入った瞬間に逃げ出してしまうかもしれない。昨日の彼女との別れ際の事を思い出しながらそんな事を考えてしまう。

 それでも、何も分からないままよりは直接彼女に理由を聞いて、もし自分が悪いのであれば謝って許して貰おう。そう心に決め、

「今日もお仕事休みなの?」

 出来るだけに自然にと意識をして声を掛けた。

 それが本当に自然だったのかどうかは分からないが、

「ちょっとサボっちゃった」

 欄干に肘をつき両手の上に乗っけた顔をゆっくりと外してこちらに向け、苦笑いを作って言ってくれた。

 彼女の見せてくれたのは満面の笑みでは無かったけれど、それでも自然な苦笑いだった事に少し安堵して、僕も言葉を返す。

「僕はちゃんと断って抜けて来たよ」

 それを聞いた紗千は、ふふと小さく可愛く笑うと、

「真吾君は偉いね」

 一言呟いた。


 彼女の立つ場所。そこから体一つ分を離して欄干に背中を預ける。その体勢になると、ちょうどビルの上に立つ看板が良く見える。しかし、先程確認したように、そこにはあの見慣れた絵の姿は無くなっていた。

 百瀬さんが居なくなった事に合わせて絵も撤去されてしまったのだろうか。

 千広さんに言ったように、人が居なくなるという事がこの世界の普通であるならば、その人がこの世界で作り出した物が本人と同じように消えてしまっても何もおかしくはない。

 寂しい。寂しい。寂しい。

「寂しい」

 言葉がそのまま口から零れてしまっていた。

 それを聞き逃さなかった紗千が、

「寂しいの?」

 聞き返してくるので、全てを説明した。絵の事、百瀬さんの事、僕が今まで関わった全ての人の事。


「真吾君、ちゃんと仕事してるんだね?」

「仕事って言うか、困ってる人に協力してただけって感じだけどね?」

「じゃあ、私に対してのアレもそういう感じ?」

 アレというのは昨日、僕が言った紗千の力になりたいって事だろう。しかし、彼女からは昨日のような怒気は感じない。だから、僕はゆっくりと首を縦に振り、

「でも、親切の押し売りって言われるんだけどね」

「それでも、真吾君は止めないんだ?」

 僕は少し悩むが、

「止めるって事は考えたこと無いかな?」

 彼女は微笑んで僕を見る。

 何かおかしな事言ったかな?と、思うが、

「じゃあ、困ってる人を助けるのが斎藤真吾って人なんだね」

 紗千に初めて呼び捨てで呼ばれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ