加速(二)
自分から説明し始めた癖にどうしてこの人はキレてるんだ。
僕も色々と言いたい事はあったが、少し大人になろうと心に誓いグッと堪える。
「どうして、僕が知り合った人ばかりが居なくなるんです?」
「だから、さっきも言ったけど知らねえって言ってるだろ。ってか、どうしてお前は色々考えられる頭があるのにそうやって自分本位なんだよ?」
「――別に自分本位のつもりは無いです」
嘘を言ったつもりは全く無かった。本当に自分ではそんなつもりが無かったので無いと答えたまでだ。
しかし、千広さんは、
「この世界から居なくなる人間がどうしてお前の周りだけだと思ってんだって話だよ」
そう言った。
言われて気付く。この世界から居なくなっているのは、別に僕と関わった人、僕の知り合いだけじゃ無いんだと。
「千広さんにも理由が分からないなら、そういう物だって思うしか無いんですかね?」
「――かもな?」
頷いた千広さんは、話が終わった事も確認せず、すぐに本を手に取る。
それはいつもの光景で、見飽きてしまったこの世界の日常であった。
「千広さん、ちょっと散歩に行って来て良いですか?」
「おお、今日も別に誰か来る予定も無いし、行って来い」
店主に許しを得て、僕はそのまま店を出た。特に何をする予定もどこに行くかも決めてないが、こういう気分の時にいつも行く場所と言えば、あそこしか無い。
あの歩道橋に行って、百瀬さんの描いた絵をボーっと眺めるのだ。今は、何も考えずにただただあの絵を眺めていたい。そんな気分だ。
ここ数日で僕の頭と心の中は、台風の様に雨風が吹いていたり、嵐の様に荒れていたり、また雲一つ無い快晴だったりと日によってコロコロと変わっているが、この世界の天気はあまり大荒れになるという事が無いみたいだ。
本日も雲が薄く高く、日差しが少しだけ優しさを持つ秋の昼間のような陽気だった。
歩道橋へと差し掛かった所で違和感を感じ、ふとビルの上を見上げる。違和感の正体はすぐに分かった。そこに描かれていたはずの百瀬さんの絵がいつの間にか無くなっているのだ。
僕は、しっかりともう一度確認しようと、駆け足で歩道橋の階段を上がるが、橋の中央であの人同じように佇む紗千の姿を見つけて、息を飲んでしまった。
どうして、彼女はまたここにいるんだろう。
絵の確認をしてビルのオーナーさんに話を聞きたいと思っていたのだが、紗千がそこにいるのならば、彼女とまた話がしたいと思ってしまう自分がいる。




