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距離(八)

「真吾君は優しいね」

 ベッドに腰を下ろしたまま紗千が言う。

「でもね、それってただのおっせかいだよ」

 彼女の笑顔はいつの間にか消え去って、真剣な表情でただ僕の方を向いて淡々と続けた。

「だって、誰かを殺しちゃうなんて、つい口が滑っちゃっただけだし、それが理由で何か話を聞いて欲しいなんて、全然思ってなかったもん。だから、全部真吾君の思い込みと考え過ぎだよ」

 最後、少し冗談っぽく言ったが、僕と彼女の心の距離がどんどん離れて行ってる気がした。


 もし彼女が嘘をついていたとしても、それはこれ以上踏み込まないで欲しいという彼女の意思表示に違いない。

 ここに来る前に千広さんに言われた『プライベート、プライバシーに関わる事』という言葉が脳裏にゆっくりと浮かんで来る。

 紗千本人に直接違うと言われてしまうと、こちらもあまり強く追及は出来ない。

「僕の勘違いなら、それで良いんだ」

 ただ、

「ただ、紗千の力になりたいって考えてたら、なんか、あの時の事がすごい印象に残っててさ。少し気になっただけだから」

 黙って僕の話を聞いてくれていた紗千は、

「私の力になりたいってすごい言ってくれるね?」

 小さく呟いた。

 改めて他人の口から自分の言っていた事を聞かされると、少し恥ずかしさを覚える。

 これがもう少し普通の言葉だったらそうでも無いのだろうけど、女の子に対して力になりたいなんて恥ずかしい以外の何物でもない。

 そんな恥ずかしさなど、次の紗千の言葉で一瞬にして吹き飛んだ。


「そんなに簡単に他人ヒトの力になんてなれないよ」

 少しだけ怒気の籠った声に

「――え?」

 と、しか言えなかった。


「何?聞こえなかった?誰かの力になるっていうのは、口で言うほど簡単じゃないの!」

 僕が彼女の怒りに薪をくべてしまったのか、一瞬にして口調が強くなった。そもそもどうして怒っているのかも理解出来ていない現状だ。

 未だにベッドに腰を下ろしたままの彼女は、左手で頭を押さえながら、

「ごめん、一日出歩いて疲れてるから、そろそろ帰って貰えるかな?」

 僕の顔を見ず、伏し目がちに言われ、半ば強引にアパートの部屋から追い出されてしまった。


 外に出ても、しばらくは動き出せないままその場に立ち尽くしていた。

 何か気に入らない事を言ってしまったのか考えてみるが、全く心当たりが無い。普通に話をしていただけだ。

 ただ彼女の力になりたいと――。

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