仲裁(三)
後日、九十九敦さんとは骨董品店で会うことになった。
千広さん曰く、「ハンバーガーショップで待ち合わせにしたら?」 と、提案したそうなのだが、敦さんがどうしても止めてくださいと懇願して来たので、ここで許してやった。だそうだ。
もう日も暮れて辺りが薄暗くなる時間帯。
黒よりもやや茶色よりに染められた頭にローズと言われる赤い色をしたネクタイを締め、全身を黒のスーツでビシッと決めた男が骨董品店の扉を叩いた。
「すいません。お邪魔します」
意外にも見た目もよりも弱気と言うか腰の低そうな男だった。
彼は、レジテーブルを目指して店の中を進んでくるが、一歩進む毎に何故か軽く会釈をし、
「すいません。すいません」
と、小さく呟いている。
敦さんが、椅子に腰を下ろしたタイミングでコーヒーを出す。
分かってはいたが、軽く会釈をされ、
「すいません」
と、お礼が小さく返って来た。
僕は自分と千広さんの分もテーブルへと置き、何だか難しそうな人だな。と、この先の不安に駆られてしまった。しかし、やると言った以上はしっかりと彼の為に仕事をしたい。だから、僕も同じように腰を下ろして、依頼の件をもう一度しっかり聞かせて貰う事にした。
「単刀直入なんですけど、喧嘩の原因を詳しく説明して貰って良いですか?」
彼は、小さく頷いて話し始める。
「私の友人が人気ロックバンドのコンサートチケットを購入していたんですが、どうやら別の用事が入ってしまったようで、どうせ行けないんだったらと私に譲ってくれたんです。別に知らない人たちでも無いからと、弟と二人でコンサートを見に出かけたんです。コンサートを楽しんで帰るまでは良かったんですが、帰りの高速道路で事故渋滞に引っ掛かってしまいまして……。それでも最初は良かったんですよ?コンサートの感想を言い合ったり、あのバンドのここが良いとか、そんな話で盛り上がって、でもそれも長くは続かなくて、次第に車が進まない事へのイライラや早く家に帰りたいのに帰れないもどかしさが募ってきまして、気が付いたら大ゲンカになっていまして」
一息付き、コーヒーに口を付ける。
こちらの勝手な第一印象であんまり人とお話しするのが得意では無い人なのかな?とか思っていた事を全力で謝りたい。
それにしても、喧嘩の原因がゴールデンウィークに二人で旅行に出掛けたカップル的な感じだな。と、そんな個人的な感想は置いておいて。仲直りさせる方法を考えないといけないんだけど、
「詳細は大体分かりましたけど、そんなに変わった理由とかでも無いですし、面と向かって頭を下げて謝罪するのが一番手っ取り早いような気がするんですが」
僕は考えてた事をそのまま口に出した。
そもそも喧嘩なんてものは、どちらかが謝って相手が許してしまえばそれで終わり。その後、ギクシャクしようが更に絆が強くなるかは、人それぞれ、喧嘩した者それぞれだ。だから、まずそこに向かうのが解決の近道になる。変に何かしようと間延びしてしまったり、タイミングを失っては仲直り出来るものも出来なくなってしまうわけだ。
「でも、もう何カ月も会話してなくて、顔を合わせるのも緊張して」
両手でコーヒーカップを持ったまま、そう言って俯いてしまう。
僕に兄弟がいたかどうかは覚えていないけど、お兄さんって言うのはもっとしっかりしていて頼りになる存在なんだと思っていたけど、世の中そういう兄弟ばっかりでも無いみたいだ。この人を見ているとそう思う。逆に弟さんの方が頼りになるんじゃ?――と、そこまで考えて、
「すいません。ちょっと思い付いたことあるんで行ってきます。お兄さんはもう少しそこで待っててくださいね?」
言いながら、走って店を後にした。




