距離(五)
米蔵さんに教えて貰った住所は、あの事務所から結構な距離があり、尚且つ小高い丘の上にあるらしく、僕はしばらくの間、坂道を上り続けていた。
普段、紗千はどうやって通っているんだろう?仕事終わってこの坂道を歩いて帰らなきゃいけないってなると、なかなか毎日しんどい生活をしているなぁ。
大きくカーブを描くように続く坂道を上ると、そこは集合住宅やアパートが軒を連ねる住宅街になっていた。建物自体はどれも新しいので実際には軒を連ねている訳では無いのだが。それくらい多くの建物があるという事だ。
その中でも比較的新しい白と黒を基調にしたオシャレなアパートが目を引く。
「デザイナーズマンションってのは聞いたことあるけど、デザイナーズアパート?」
上下階で一つになった建物が三つ連なり六部屋で構成されたそのアパートの一番右端の二階がどうやら紗千の住んでいる部屋らしい。
パッと見た感じ電気が点いていない。まあ、まだお昼なので電気が点いていないからといって、中に人がいないという事にはならないと思うけれど、カーテンも閉まっているみたいだし、きっとまだ帰っていないのだろう。
彼女を待つのは問題無いんだけれど、一体どこで待っていようか。
さすがに女の子の部屋の前で待つって言うのは少し抵抗がある。近所の人に見られたところで僕がどんな関係の相手の家の前で待ち伏せをしているかなんて分からないし、紗千だったら多少驚くかもしれないが、それで軽蔑したり警察を呼んだりなんて事にはならないと思う。
でも、やっぱり抵抗がある。
僕はそのアパートの前の道路に設置されたバス停横のベンチに腰を下ろす。アパートに背を向けているのでもし紗千が帰って来ても気付けないかもしれないというのが難点だが、ずっと立ってアパートを見つめている不審者には為り難いだろう。
勢いで来てしまったけれど、何かしら暇を潰す道具を持って来るべきだったなと少し後悔した。
せめて、千広さんに本でも借りて来れば良かった。まあ、さすがにそこまでは頭が回らなかったのは仕方がない。座った今だからこそ冷静に考えられるけれど、あの時はそんな考えもこういう事になる事も想像出来なかった訳だから。
そんな僕の前にバスが止まる。
彼女のアパートの目の前にバス停があるならバスで来るのも手だったな。なんて考えていると、
「あれ?真吾君?」
目の前から声が来た。




