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距離(二)

「それが出来るなら昨日の時点でやってますよ」

 今度は僕が眉間に皺を寄せて言う。

「で、話はどうなったんだよ?それで終わりか?」

「終わりですよ。僕が聞いた話ですけど、簡単に人に話して良い感じじゃないって今、思いました」

 千広さんは、相変わらず本に目を向けたまま口だけ開き、

「まあ、それが分かってるなら良い。一応、お前にもそういう配慮みたいなものがあって安心したわ」

 バカにされた気がして、

「どういう事ですか!」

 言い返すが、

「前も言ったけど、あいつみたいに全ての記憶を覚えてる人間は珍しいんだよ」

「はい、聞きました」

「色々興味があって気になるのは分かるが、あんまり無理矢理首突っ込むなよ?ここに来た理由ってのは、ここにいる人間にとっての全てになり得る事だからな?プライベートとかプライバシーとかそういう次元の上をいってるんだよ。だから、気を付けろよ?」

 妙に真剣な言い方をされてしまった。

 千広さんの言ってる事は間違いないと思う。僕にも記憶があれば、あまり人に話したくない事の一つや二つはあるかもしれないし、とても人には言えないという人もいるだろう。


 でも、紗千のあの言葉――


「なんか、紗千の事は放って置けないんです」

 無意識の内にそんな言葉が口からこぼれていた。

 それに反応した千広さんが、本を閉じてテーブルに置くと、こちらにゆっくりと顔を向け、

「短い付き合いだけど、お前のその性格には慣れた。好きにやって来い」

 空いた手を僕に向けて払う。さっさと行けといったジェスチャーだろう。しかし、

「あの、どこに行ったら良いのか分からないんですけど」

 彼女の事を何も知らなかった。

 椅子から腰を上げようとした体勢で止まり、

「紗千ってどこに住んでるんですかね?」

「お前、昨日一日一緒に居たんじゃないのかよ?連絡先くらい聞いとけよ」

 今度は千広さんが溜め息を吐き出して、後ろに並ぶ棚の中から一枚の名刺を取り出すと、

「ほれ、あいつの名刺だ。仕事してるならここにいるだろう」

「ありがとうございます!」

 やっと中腰の体勢から解放された僕はすぐに店を出た。

 足を進めながら貰った名刺に目を向ける。そこに書いてある彼女の名前と住所と電話番号。名刺なのできっと仕事用の番号と事務所か会社の住所になるだろう。

 今はとにかく足を進めるだけだ。

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