対照(七)
紗千の笑顔に気分が良くなった僕は、
「せっかくだからしてみる?二人乗り」
意気揚々と提案してみたが、意外にも紗千は乗り気では無く、
「うーん、今日は良いかな?」
やんわりと断られてしまった。が、彼女は再び口を開き、、
「でもさ、ここだったら私たちでも車とか運転出来ちゃうんじゃないのかな?」
また新たな提案をされた。
車の免許は十八歳にならないと取得出来ないというルールがある世界に長くいた影響からなのか、街の中を走る車を見ても特に何も思わなかったけれど、
「確かにそうだね。運転出来ないのが普通だと思ってたから全く思い付かなかった」
言って、隣に座る彼女を見ると、自分の顎に手を当てて何やら考え込んでいる。他に、この世界で出来る事を考えているんだろう。だから、
「他にはどんな事が出来るかな?」
自分自身に尋ねるようにして小さく言った。
紗千はすぐにこちらに向き直り、
「向こうでやっちゃいけなかったり、出来ない事だよね?」
確認して、こう呟いた。
「誰かを殺しちゃうってのもこの世界なら大丈夫なのかな?」
予想だにしていない答えを受け、僕は言葉を失ってしまった。
確かに向こうの世界では出来ない事ではあるけれど、本当にこちらの世界では大丈夫なのかという話だ。それに仮に大丈夫だったとしても、それを実行したい人間自体が確実に少数派だろう。
どうして紗千がそんな事を言ったのか、気になってそちらを見ると、彼女の笑顔はいつの間にか消えており、
「変な事言ってごめんね」
僕の視線に気付いて謝罪を入れると口角を上げて無理矢理微笑んだ。
その笑顔が何故かすごく怖くて、返事をする事が出来なかった。
そのまましばらく、どちらからも話すこと無く時間が過ぎて行った。
空の色が徐々に赤みを帯びて来た頃にようやく、
「そろそろ、帰ろうか?」
紗千が口を開いた。
僕は頷いて答えを作ると、
「じゃあ、またね」
小さく呟いた。彼女はその言葉に手を振って答えてくれたが、それ以上何かある訳でもなく公園を後にした。
僕は黙っている間もずっと、彼女がどうしてあんな事を言ったのかを考えていた。しかし、結局答えは出ず仕舞いだった。直接尋ねれば簡単かもしれないが、それが出来る雰囲気ではなかった。
帰り道を歩きながら、もしかしたらあれは紗千の冗談だったかもしれないと、思ったけれど、急にあんなにダークな冗談を言うタイプには見えない。とりあえず、人生で初めてのデートは何とも後味の悪い終わり方になってしまったな。と、肩を落とした。




