対照(六)
「他にもこういうビックリした道具とか無いの?」
もしかしたら無くした記憶を取り戻してくれる道具とかがあるかもしれない。なんて、期待はしていないけれど、僕がいる世界は本当に今までとは違う世界なんだということが実感出来る良い機会だ。くらいには思ってる。
「一番はアレだよ」
「ああ、アレね!」
チャンスだと思って乗っかってみたが、
「この街自体かな?」
何事も無かったようにスル―されてしまった。意図的という感じはしないので、多分彼女は本気で気付いていないのだろう。
「この街ってこの世界って事でしょ?」
「うん」
彼女は嬉しそうに笑い、
「せっかくの現実じゃない世界なんだから、楽しまないと損でしょ?」
その言葉で一つ思った。今回、僕をデートに誘ったのもきっと、彼女の言う『この世界を楽しまないと損』の内の一つなのだろう。少しだけ落ち込みそうになるが、彼女がデートをしたい相手に自分が選ばれた事は光栄に思わなければならない。
「紗千はさ、デートでしてみたかったことって無いの?」
言った後で、僕はすぐに言い直す。
「デートじゃなくても、何かやりたかった事とか」
「もしかして、私の心の残りが気になってるの?」
彼女の大きな目が僅かに細くなった。
「いや、そういう事は全然無くて!せっかくのデートなんだし……」
「冗談だって、真吾君は優しいね」
こちらに向けていた顔を再び、上空に広がる青い空と白い雲へと向けるように上げ、
「真吾君こそ何か無いの?女の子と一緒にしたかった事とかさ」
逆の立場になると良く分かる。女の子と遊ぶという機会がほとんど無かった人間にとってはこんなにも酷な質問は無い。だから、
「まあ、デートもやりたかった事の内の一つだとは思うけど」
なんて、返した。
「じゃあ、今日で一つクリアになっちゃう?」
僕は彼女の方を見ずに、真正面を向いて頷きだけで返事をした。
「私は、自転車の二人乗りとかかな?漫画とか映画とかさ、そういうのでは良くあるんだけど、実際となるとなかなかね?しかも、今は怒られちゃうから」
確かにフィクションの中ではよくあるシチュエーションだけれども、自転車の二人乗りは禁止になってしまったので、実際にやろうとすると、わざわざ私有地に赴かなくてはならない。しかし、
「でもさ、ここなら出来るんじゃない?自転車の二人乗り」
そう、法律やルールがあるのか分からないけれど、自転車の二人乗りくらいでは怒られない世界なのではないだろうか。
僕の提案に彼女も目から鱗だったようで、
「あ、確かにそうかも!」
弾けた笑顔をこちらに向けて喜んでくれた。




