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対照(四)

「覚えてる人間側の意見を言わせて貰うとね?」

 そう前置きをした紗千は、

「特別良いって事は無いよ。やっぱり無い物ねだりって言うかさ、覚えてる人間は覚えてない方が良かったなって思って、覚えてない人間は覚えてる人が羨ましくなったりね?」

「紗千も覚えてない方が良かった?」

 僕の質問にまた間を作って、

「うーん、私の場合は辛い事が多かったから覚えてない方が良かったかな?」

 言った彼女の表情が少しだけ曇った。

 これは触れてはいけない事だと思い、すぐに話を変えようとしたが、

「あ、でも色々覚えてたからこそこっちでお仕事出来てるところもあるからな。やっぱり良い事半分悪い事半分かな?」

 こちらを向いて笑顔を作ってくれた。

 悪い人では無いのは最初から分かっていたが、改めて彼女の優しさに触れた気がした。そんな彼女の為に何かしてあげたいと思うのはなんでなんだろう。

「そっか、でも今の生活は楽しいんでしょ?」

「え?」

「だって、初めて会った時から思ってたけど、紗千ってすごい良く笑うじゃん」

 今まで僕の目を真っ直ぐ見つめていた彼女の視線がゆっくりと宙を泳ぎ、頬が徐々に赤くなっていく。

 そんなに恥ずかしがるような事を僕は言ってしまったのだろうか?ただ単に思っている事を言っただけなんだけれど。


 そのまま、しばらく紗千は喋らなくなってしまったので、

「何かデザートでも食べに行く?買い物もしなかったし、公園のベンチでボーっと喋っててもデートっぽく無いでしょ?」

 いつの間にか何も意識せず普通に話せるようになっていた。

 彼女を少しでも楽しませてあげたいという気持ちからか、それとも二人で話す間に慣れてしまったのかは分からないけれど、どちらにしても良い事だと思うのでここからは、僕のリードでこの辺を散策してみようと思った。しかし、いつの間にか表情を元に戻した紗千が、

「ううん、こういうのもデートだよ」

 また笑顔で言う。

 今度は僕の頬が熱を持っているのが分かる。

「そう?なら、良いんだけど」

 恥ずかしさを隠す様に呟いて、

「それにしても本当に今日は暑いなあ」

 何事も無かったように気温の話に振り直す。

 木陰にいる分、他よりは涼しいだろうけど、

「暑いね?」

 紗千も同意し、首を上げ空を見上げながら言った。

「いつもと同じ空に見えるんだけどなー」

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