対照(二)
一つを思い出した事によってそこから芋づる式に全ての記憶が蘇るという事は無かったが、意識が色んな方向に飛んでいた僕の元に、
「デートだよ。一緒に買い物したり遊んだりするの、良いでしょ?」
あの日と同じ、灰色のスカートに長袖Yシャツと緑のリボンの制服姿の紗千さんが、瞳を輝かせ一歩近付いて来て言う。
「いや、でもお店のお仕事とかもあるんで、どうですかね?」
恥かしさとどうして良いのか分からない中で、はぐらかす様に口から出たこの言葉に、僕のヘタレっぷりが良く表れている。きっと元いた世界でも、女の子と出掛ける事なんてほとんど無かったんだろう。免疫が無さ過ぎだと自分でも思った。
そして、ふと考える。
もし、デートの誘いをしているのが男子中学生であったなら、相手の返事が僕みたいなYESともNOとも分からない中途半端な言葉の時点で心が折れているかもしれない。いや、僕なら多分折れている。と言うか、その前に僕ならお誘いすら出来ていないだろう。
紗千さんが、男子中学生のように意を決しているかは分からないが、せっかくデートのお誘いをしてくれたのに、僕はなんて最低な返事をしてしまったのだろう。と、後悔しいると、
「じゃあ、午後からでもお休みが貰えないか私が交渉して来てあげよう!」
彼女は、そう言って意気揚々とお店の中へと入って行く。
僕はすりガラスでボヤける彼女の背中を見つめたまま、
「いや、それくらいは僕が自分で――」
力無く垂れ流されていく言葉を口から吐き出していた。
その後の話は、今現在公園のベンチに座っている僕がいるという事で大体の話は分かって貰えるだろう。
「はい、お水とジュース買って来たけど、真吾君はどっちがいい?」
ベンチの横から声を掛けられる。
午前中とは打って変わって、淡い青色のカットソーに白のロングスカートと花のワンポイントが入ったサンダルといった格好の紗千さんが両手に水とジュースのペットボトルを持って立っていた。
こういうのは男が買いに行くものじゃないか?と、思うのだが、
「私が行って来るからいいよ!」
この一言で、何もやらせては貰えなかった。
「あ、紗千さんが先に選んでください。僕はどっちでも良いので」
終始緊張しっぱなしで、いつの間にか敬語になってしまっているが、状況が状況だけに仕方がない気もする。
「じゃあ、遠慮なくお水を貰おうかな?」
彼女は、ジュースの方を僕に差し出すと、隣に腰を下ろした。




