温習(七)
「うんうん」
彼は納得したように首を二度縦に振ると、
「聞いていた以上に誠実そうな子だね」
僕の方をじっくりと見ながらそんな事を言った。
別に何かやましい事がある訳でも、恥かしいという事も無いのだが、頭の先からつま先までを行ったり来たり、じろじろと見られるのはあまり気持ちの良いものでは無い。
考えと身体がリンクしていたのだろう、僕は無意識の内に手で身体を隠していた。
「あ、すまないね。ついジロジロと」
八十島さんは軽く右手を頭の所まで上げて謝罪の意を示す。
それを見てはじめて自分自身が、まるでお風呂を覗かれた女の子のような格好になっている事に気付き、慌てて両手を下へと下ろした。それだけでは恥ずかしさが収まらないので、
「今日は、どういう用事でいらっしゃったんですか?」
無理矢理、頭の中から質問を捻り出した。
「今日はね、以前請け負った仕事の報告と新しい仕事の話を聞きに来たんだ」
「それはご苦労様です。でも、お仕事って――」
そこまで言った時に千広さんが、あのお盆を持って現れた。
「そのおっさんはな、色々ヤバイ仕事をしてる人だから、仲良くしとくといいぞ?」
コーヒーをテーブルに置いてニヤニヤしながら言うが、言ってる事はとても笑いながら言えるような話では無いだろうと思うが、それは八十島さんも同じだったらしく、
「別にそんな事は無いよ。普通の仕事、普通のね」
落ち着いた声、そして表情で否定してみせた。僕にはそれが物凄く怪しく見えてしまったのだが、これは単なる気のせいであると思いたい。
千広さんの持って来たコーヒーは僕の分もしっかりと用意されていたので、有難く受け取り二人と同じように僕も椅子に腰を下ろした。お客さんと従業員のいつもの位置関係だ。
「さてと、真吾を少しからかったところで仕事の話でもしますか?」
「え、ちょっと!」
言ったが、僕の反応など見越していたようで、
「で、どうでした以前の話は?」
と、何事も無かったように八十島さんに尋ねていた。
「ああ、七尾京香ちゃんの件はね、本人も納得してくれたよ」
「え?」
意外過ぎる名前が八十島さんか出て来たので驚いて声を上げてしまった。
「どういう事ですか?」
本人では無く、千広さんに尋ねると、
「そういえば、真吾は知らなかったか。じゃあ、ちょっと悪いけど詳しく説明してやってくれる?」
僕の言葉が千広さんへ、そして更にそこから八十島さんへと移って行き、
「はいはい。簡単に言うと、僕のやってる仕事って言うのはね。ここの世界と向こうの世界を繋げることなんだけどね?」
もう訳が分からなくて口からは言葉が何も出なかった。




