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温習(三)

「それは何でなんでしょうか?」

「俺が来た時には既にそういう風になってたからな?周りの人間に言いふらしたって何かが変わる訳でも無いんだし、別にあんまり関係無いとは思うんだけどな、個人的に」

「なるほど」

 相槌を打って、ふと疑問が頭に浮かんだ。先程の『俺が来た時には』という言葉から、僕と同じように千広さんもここにやって来た日というのがある訳だ。何年も前なのか、それとも最近なのか、それがちょっと知りたくなって、

「って言うか、千広さんはいつからここにいるんですか?」

「いつからって言われてもな?」

 その言葉の意味が分からず、黙ったまま続きを待っていると、

「ここって朝昼晩って時間の流れはあっても、日付とかそっちの時間の流れは無いからな?」

「え?そうなんですか?」

 千広さんは頷いて肯定した。

「じゃあ、ここにいる人達はここに来た時のままの姿をしてるって事ですか?」

「まあ、年を取る訳じゃないから、そういう事になるな」

 目の前に座る千広さんを見る。彼もそうだが、僕が一緒にお仕事をした人達を含めて、この世界にいる人々はその年齢で命を落としたという事になるのだろう。かくいう僕も、多分そうだ。

「僕が言うのも変ですけど、結構若くして亡くなってる方が多いんですね」

「それは、俺も含まれてんのか?」

 言われ、ハッとして即座に、

「すいません」

 と、頭を下げるが、

「まあ、後悔を残してる奴ばっかりがここに来てる印象はあるよな。簡単に言ったら夢半ばってのかな?そういうのはやっぱり若い奴が多いだろ?」

 もしかしたら千広さんは、自分の事を言ってるのかもしれないが、表情は穏やかで優しい笑みを浮かべている。と、同時に僕は一番最初に仕事を手伝った百瀬さんの事が頭に浮かんだ。そういえば、あの人もやりたい事があってこの店に来たんだった。

「百瀬さんが良い例ですかね?」

 それを受けた千広さんは、一瞬考えるような素振りをした後で、

「ああ、あの絵が描きたいって言ってた大学生の?」

 僕が頷くと、

「あいつも大変だったよな」

 そんな言葉が返って来たので、絵を描く旅に出た話だと思い、

「まさか、市川さんと一緒に旅に行くとは思いませんでしたよ」

「ん?」

 千広さんの怪訝そうな顔を見るのは、これで一体何度目位だろう。そう思った。

「あれ?そういう意味の大変じゃないんですか?」

「ああ、真吾は知らないのか。あの百瀬がどうしてこの世界に来たのか」

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