温習(一)
今日は朝から珍しく、千広さんに与えられた自室にこもっていた。
別に先日のように再び雰囲気が悪くなって仕事に出ていないという訳ではない。ここ数日で起こった急転直下の僕の環境の変化を雇い主である千広さんが考慮してくれた結果、一日休みを貰ったという感じだ。まあ、環境が変化したなんて言っているけど、ただ単に僕が知らなかった事が明らかにされただけで周囲はいつもと同じ日常を繰り返しているのだけれど。
二階には階段を上った先に三つの部屋が並んでいるが、一番奥は千広さんの自室になっており、真ん中は空き部屋。そして、一番手前に現在、僕が住まわせて貰っている。
千広さん曰く、
「階段に一番近くて、上ったり下りたりする音が煩いかもしれんが、俺とお前の二人しかいない訳だから、あんまり関係無いだろ?」
そもそも階段をあまり使わなかった。昼間は仕事で一階にいるし、夜にはご飯を食べて自室に入ってしまったら、あとは二人ともほとんど部屋から出て来ない。
ここにやって来た時には何も持っていなかった僕も、日常生活に必要な物は千広さんに揃えて貰い、自分で必要だと思ったものは給料が出てから買ったりして、部屋の中の物を揃えた。
入り口であるドアの向かい側にはベッドがあり、その足側にはデスクと椅子が置いてある。あとは本棚と洋服箪笥があるが、これは店の物を使わせて貰っている。
「いちいち買いに行くの面倒だろ?」
千広さんがそんな事を言って、二人で一階にあった箪笥と棚を文句を言いながらこの部屋まで運んだ。せっかく運んで来たんだけれど、本棚にはほとんど物が入っていないし、箪笥もまだまだ収納スペースには余裕がある。きっと、千広さんは自分の事をベースに考えていたんだろう。彼の部屋を覗いたことは無いけれど、きっと本棚がたくさん並んでいる気がする。
僕は、朝ご飯を食べてベッドに横になりながらそんな事を考えるが、それが終わってからはやっぱり昨日の事を思い出していた。
いつの間にか、気持ちは落ち着いていたけれど、まだまだ全てを納得した訳では無いし、本当に千広さんが言っていたような不思議な世界であるとも信じられていないのが現状だ。まあ、言うなれば半信半疑と言った感じだろうか。
「お客さんとして関わった人は結構いるんだけど、そういう事を知ってるって感じの人は一人も居なかった気がするな」
最初に取っ掛かりを作ってくれたのは、歩道橋で会った同業者らしい紗千さんで、詳しく話をしてくれたのは千広さんだ。で、色々考えてみた結果、米蔵さんもきっと知っているんだと思う。前に話をした時に僕が持っている疑問を解決出来るみたいな話をした気がする。




