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好敵手(六)

「悪いな」

 千広さんは切なそうな顔をしながらポツリと呟いた。

「こうなるのが分かってたからあんまり詳しく話さなかったんだ。でも、どうせこうなるなら早い方が良かったのかもな」

 そして、再び、

「悪かったな」

 今度はしっかりと頭を下げて謝罪の言葉を述べていた。

 それに驚いた僕は、

「ちょっと、どうして千広さんが謝るんですか?」

 元々記憶を失っていたのは僕だ。千広さんが謝る事なんて一つも無い。むしろ、何も覚えてない僕に生活が出来るチャンスをくれた訳だから、僕が逆にお礼を言わなければならないくらいだ。

「僕がお礼を言う事はあっても、千広さんに謝って貰う理由なんて無いですよ!」

 彼は、少し驚いた表情をしていたが、すぐに笑顔へと変わり、

「真吾は、しっかりしてんなあ」

 椅子に座ったままの状態で顔を天井へと向ける。まさに天を仰ぐという状態だ。

「真吾、この世界が納得出来なくても別にそれはいい」

 千広さんは、だけどな?と、挟み、

「マイナスにだけは考えるなよ?こんな珍しい体験出来てラッキーくらいに思っとけ」

 その言葉が何だかとても千広さんらしくて、僕はついつい笑って吹き出してしまった。

「なんか分からないですけど、ちょっと気持ちが落ち着いて来ました」

「なんで、いきなり爆笑したかは分からんが、まあ、落ち着いたなら何よりだ」

 千広さんが少しだけ焦ってる姿はやっぱり何だか面白い。

 そのまま二人で訳が分からないまま笑い合っている内に、あの日、病院から帰った来た時から続いていた変な空気は一瞬にしてどこかへ消えてしまっていた。

 和やかな空気が一段落したところで、

「僕はこのままここで厄介になってて大丈夫なんですか?」

 聞いてみた。

 いつの間にか再び本を読み始めていた千広さんは、

「この世界がどういうとこか知ったからって別に今までと何かが変わる事は無いだろ?」

 その言葉に安心したのも束の間、

「なんだ?真実を知ったらこの世界には居られなくなるとでも思ったか?そんなファンタジー小説じゃあるまいし」

 皮肉交じりに言われてしまった。

 まあ、僕からしたらこの世界の状況だけでも十二分にファンタジーな世界なんですけれど。とは、千広さんには言わない。というか、言えない。

「そうじゃ無いですけど、何となく聞いてみただけです」

 でも、本当は千広さんがここに居て良いと言ってくれたことがとても嬉しかった。

 何だかんだでお世話になっているこの人の事が、僕にとっての大切な人になっているんだろうな。と、思った。

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