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好敵手(三)

「まあ、私も詳しいことはよく知らないからさ。その話はこの辺にしとこう。あんまり適当なこと言って混乱させちゃったら悪いしね?」

 時すでに遅しって感じが見事に当てはまる状況じゃないだろうか?

 僕は、彼女が目の前に現れてから、結構な頻度で混乱していると思う。しかし、そんな僕の事なんてお構いなしに彼女の話は続く。

「詳しく知りたいなら鈴木さんに聞けば良いじゃない。今、厄介になってるんでしょ?私より長いし、きっと詳しいでしょ?」

 僕は口を挟もうとするが、

「それよりさ、なんであんな暗い顔して歩いてたのさ?」

 その質問に答える前に、僕には聞きたいことが山ほどある。

「ちょ、ちょっと待って!鈴木さんって千広さんの事だよね?なんで、僕があそこに厄介になってるの知ってるの?」

「だって、この辺そんな話で持ちきりだもん。真吾君って意外と有名人だよ?」

 他人事だと思っているのか、彼女は嬉しそうに言っている。

「この辺って何?有名人?僕が?」

 やっぱりまた混乱してきた。

 紗千さんの話から出てきた疑問を解決しようと質問すると、更に分からないことが増えていってしまう。

「ああ、もう!分かんないこと増えすぎっ!」

 気が付いたら歩道橋の上で、さっき初めて会ったばかりの女の子の前で絶叫していた。

 やってしまったと思う一方、少しだけスッキリしたという気持ちがせめぎ合う心の中、そのまま顔を上げて彼女の顔を見ると予想通りの表情をしていた。当然吃驚びっくりという顔であった。

 僕は慌てて、

「あ、ごめん。僕、本当に何も覚えてないからさ、ちょっと色んな情報が一気に入って来て混乱しちゃって」

 それを聞いて彼女は納得したのか、二度ほど頷きながら、

「分かるよ。私も仕事始めたばっかりの時は毎日そんな感じだったし」

 仕事?僕と同じようにどこかでアルバイトでもしてるのかな?それを質問しようと思ったが、

「仕事で思い出した!そろそろ戻らないとマズいんだった!じゃあ、またね」

 彼女は早口で言い終えると、手を振りながら駆け足で僕の前から遠ざかって行った。

 あんなに急いで階段を駆け下りていると、スカートの中が見えてしまうんじゃないか?と、心配してしまうが、きっと余計なお世話だろう。


 歩道橋の上から見る彼女の姿が小さくなった頃、

「さて」

 僕はそんな一言を呟いて気合を入れる。

 病院での事なんていつまでも気にしていられない。すぐに帰って今日こそは千広さんに全てを聞こう。そんな決意の表れだった。

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