好敵手(二)
僕自身が覚えていない事をこんなに突然、しかも全く見ず知らずの人の口から聞くとは思わなかった。
「同じ年なんですか?」
「そうだよ。私たち二人とも高校二年生だもん」
耳の後ろから前の方へと流れて来る髪の毛。その先を右手の人差し指と親指を使って軽くいじっている。そんな彼女の仕草を見ていると、この話題にはあまり興味が無いような感じがした。
僕が言うのも変だけど、まだ若いのに自分の年齢を気にしているんだろうか?
別に彼女に興味を持って欲しい訳では無いのだが、
「僕、今まで自分が何歳かって気にしてなかった。ってより、多分覚えてなかった」
彼女は毛先を触っていた指を僕の方へと真っ直ぐに伸ばして、
「ああ、ここに来た反動ってやつでしょ?」
知らない事を言って来た。
「え?何?反動?」
反動という言葉には聞き覚えは無かったけれど、似たような事を前に聞いていたのでそれを思い出す。
そう、いつか米蔵さんが言っていた言葉だ。
「ねえ、思ったんだけどさ。真吾君ってもしかして何も知らないの?」
質問の意図がいまいち良く分からない。
「何も知らないって言うか、ほとんどの事を覚えてないって感じだけど?」
「えっと、そうじゃなくて、ここがどこなのか?とかそういうの」
「ここがどこって如月でしょ?駅に書いてあったし」
「いや、そうなんだけど、そうじゃないって言うか……」
先程まで笑って会話をしていたはずの彼女の表情がどんどんと曇っていく。
そして、何かを考えるようにして腕組みをすると、
「これは私がバカだから上手く説明出来てないのかな?それとも真吾君がバカなの?」
その質問には、どちらの答えも出せそうにないので、
「あの、ゆっくりちゃんと説明してくれれば分かると思うから、一から説明して貰って良いかな?」
出来るだけ丁寧に、彼女を傷付けない言葉を選んでお願いした。そして、
「あと、出来れば僕が質問した事には答えて貰えると助かります」
頭を下げた。
僕はお昼過ぎの幹線道路の上に掛かっている歩道橋で一体何をやっているんだろう。
「一から説明って言われても一体何から話せば良いの?」
僕の必死のお願いが効果を与え過ぎたのか、彼女は困っていた。
だから、助け船という訳では無いが、
「僕、前に『どんなに大切な事もどんなに親しかった人の事も忘れてしまうのがここなんだ』みたいな事を聞いたことがあるんですけど、さっき紗千さんが言ってた事と関係ありますか?」
「なんだ、知ってるじゃん!それが反動だよ」
彼女の表情は再び輝きを取り戻したように見えた。




