手紙(八)
「まさか、わざわざこちらまで足を運んで頂けるとは思いませんで」
少しベッドを起こして、背中を預けるように横になっていた二見さんがそう言って頭を下げた。
僕と千広さんは、周りの人の迷惑にならないようにベッドの回りのカーテンを閉めると、そのまま窓側へと少しだけ移動して、置いてあった丸椅子に腰を下ろした。
「いえ、急に押し掛けてしまって、迷惑で無ければ良いんですが」
「私も一人で寂しかったですから、話し相手が出来るのは嬉しいんですよ」
やっぱり彼女は微笑んでいる。
急にやって来た僕たちを迷惑がる訳でもなく、笑顔で迎えてくれたのだ、きっと心の優しい人なんだろう。
「すいません。ありがとうございます。早速本題と言いますか、手紙を頂いたので大体の事情は分かっているんですが」
そう言う千広さんの手には例の封書があり、
「大事な話になりますので、直接相談が出来ればなと思ったんです」
僕は特に会話にも参加する事無く、二人の話を聞いている。
「そうでしたか、ありがとうございます」
お礼を言う表情も落ち着いていて、優しい笑顔を崩さない。
少しだけ開いた窓からは爽やかな風が室内に入って来る。
その風に髪を揺らされた千広さんは、難しい顔をしながら、
「あの、確認なんですけど本当に手紙を届けるだけで良いんですか?」
どういう理由で千広さんがそんな質問をしたのかは分からないが、二見さんは、
「はい」
と、呟いて、
「もう一度会って話をしたいと思う事もありますけど、それでも伝えたい事はきっと手紙に書いてある事と同じだと思いますから、ね?」
「そうですか」
千広さんが安堵の表情を浮かべていたのがとても印象に残っている。
「もしかして、手紙を渡す事も難しかったりするんでしょうか?」
その質問は彼女の口から出たもので、
「いえ、それはこちらの仕事ですから、二見さんは安心してお待ちください」
ただ、
「その返事を期待するのは止めてください」
僕は千広さんの顔を見た。そして、そのまま二見さんを見るが、
「はい。それは覚悟出来ていましたから」
とても穏やかな顔をしていた。
もっと驚いたり困惑したりするもんじゃないんだろうか?
本人でない僕がこれだけ納得出来ない気持ちがあるのに、どうして彼女はあんなにも落ち着いていられるのか。
そのまま少し雑談をして病室を出た僕は、前を歩く千広さんに、
「僕に分かるようにちゃんと説明して貰って良いですか?」
強い口調で言った。




