手紙(七)
入り口を抜けてロビーへと足を踏み入れる。
丁寧に掃除された真っ白な床と同じく真っ白な壁は清潔感がある。
まるで病院とは思えない吹き抜けは、一階から最上階である四階まで切り取られており、風通しが良さそうだ。そこには白衣を着たお医者さんや看護師、お見舞いに訪れた人から入院中の車椅子に乗ったおじいさんまで様々な人が行き交っていた。
千広さんは、辺りを見回して『|information』と、書かれた受付を見つけると真っ直ぐにそこへと向かう。そこには女性が二人座っており、どちらともなく、
「何かご用でしょうか?」
と、笑顔を浮かべて話し掛けて来る。
「すいません、ちょっと入院患者さんの事について知りたいんですけど」
ド直球で聞くので、個人情報で教えてくれないのでは、と心配したけれど、
「はい。お名前などは分かりますか?」
と、表情を崩すこと無くお姉さんは尋ねる。
「二見静さんという女性なんですが」
それが手紙に書かれていた差出人の名前だった。そして、旦那さんが良明さんで、息子さんが良希さん。
「二見さんでしたら、三一五号室ですね」
驚いた。そんなに簡単に教えてしまうものなんだと。
今の時代、部屋の前に掲げられていた名前のプレートなども外してしまう病院が多いと聞いていたけど、ここの病院は時代と逆行でもしているんじゃないか?
千広さんは、女性に頭を下げてお礼を言うと、すぐに言われた病室へと向かった。
その道中で、
「あんなにあっさり教えてくれるもんなんですか?」
「千広さんが言ってた個人情報ガバガバってここの事じゃないですか!」
矢継ぎ早に言うが、口の前に指を一本立てた彼に、
「ここ、病院だぞ?」
暗に黙れと言われた気がした。いや、言われたんだろう。
千広さんが言う通り、ここは病院だ。あまり騒がしくするのは良くない。圧倒的に僕が悪いし、言い訳も出来ない。だから、黙って後を着いて行く。
やっぱりというか、六人部屋になっている三一五号室の病室前にはしっかりとそれぞれの名前が掲げられており、左側の一番奥、窓側に名前があったのが依頼人である二見さんベッドであった。
あまりこういう場所には慣れていないので、病室の扉まえで立っているこの瞬間は少し緊張する。
ノックと共に『失礼します』と、中に入る千広さんの後に続いて同じように足を進め、彼女のベッド前に着く。
「いきなりお邪魔して申し訳ありません。私、鈴木千広という者なんですが?」
ベッドに横になる年老いた女性は、白髪交じりの長髪を揺らしながら、窓の外の景色を眺めるために向けていた顔をこちらに動かすと優しくそして、ゆっくりと微笑んだ。
17.02.12 誤字修正




