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手紙(六)

 三十分ほどで戻って来た千広さんは、開口一番、

「この依頼人はどうやら病院にいるみたいだな」

「病院ですか?でも、手紙を届けて欲しいって依頼が書いてあった訳ですから、もう直接渡しに行っちゃえば良いんじゃないですか?」

「面倒な事に旦那さんと息子さんは検索に引っ掛からなかったんだ」

 言って、今日何度目かの溜め息を零すと、レジ裏にある棚から車の鍵を取り出して、

「とりあえず、こっちで勝手に色々進める事も考えたが、今、こういう状況ですよって事も含めて、依頼人本人と直接話をしてからでも遅くないと思ってな――何、ボーっとしてんだ?行くぞ?」

 足早に店を後にした。


 店の裏に止めてあるコンパクトカーの存在は知っていたけれど、乗ったのは初めてだった。

 いつも歩いて移動している街を車に乗って移動するのはどこか新鮮で、見慣れた街にも新しい発見があるように感じる。

「その検索に引っ掛からないってのはどういう事なんですか?」

 シートベルトに締め付けられた胸の部分を軽く指でいじりながら、疑問に思っていた事を聞いてみた。

 普段から店に二人きりで居る事が多いので、車の中という狭い空間になったからといってそれが苦になるという事は無い。しかし、無言のまま目的地まで行くというのも運転してくれている千広さんに悪い気がして、少々気が引けてしまったってのが本音だ。


 しばらく返事は無かったが、ちょうど信号で車が止まったタイミングで、

「まあ、考えられるのは、本当にその人間が居ないってのが一つ。もう一つは居たとしても登録されてないってが一つだな?」

「そういえば、五十棲いそずみさんの時も漏れみたいな感じでしたもんね?」

「書き換えってボランティアみたいなもんだからな」

 ゆっくりと車を進めながら愚痴るように呟いた。

 僕の知らないとこで、また千広さんが苦労しているような気がした。


 車は更に西へと進み、街の郊外までやって来たところで止まった。

 大きな駐車場には、病院に近いところから車が密集するように駐車されており、距離を置けば置くほどどんどんと疎らになっていた。

 周辺には丁寧に管理された木々が綺麗な形で並んでいる。そこに目をやると、病院の看板が目に入り、

如月きさらぎ総合病院ですか」

 それをそのまま口に出す。

「ここにいるってのは分かってるけど、それが職員として働いてるのか、それとも通院して顔を出したのか、はたまた入院してるのかっては全く分かんないからな」

「え?」

「そりゃそうだろ?個人情報ガバガバじゃねえか」

「――ですね」

 僕たちは車を降りて病院の入り口へと足を進める。

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