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手紙(五)

 それから千広さんは、他にも来ていた手紙を手早く流し読みしていたが、一枚の封書で手が止まった。僕の目から見たら特に変わったところは無い普通の茶封筒でしかなく、それこそさっきまで話に出ていた公共料金の支払い用紙や役所からの大事なお知らせでも入っているのかと思ったほどだ。

 千広さんは、封書の頭を慎重に破って、中に入っていた複数枚の便箋を取り出した。

 僕は、そこでやっと誰かからの手紙なんだという事を理解し、

「千広さんにも感謝のお手紙ですか?」

 尋ねるが、

「――いや」

 短い返事で否定され、そのまま口を閉ざしてしまう。


 結局、便箋は三枚入っていたようで、その中の一枚だけに目を通し終えてから千広さんは、口を開いた。

「簡単に言うと、依頼の手紙だな」

「あ、そういうのもやってるんですね?」

「まあ、珍しいケースではあるけどな」

 僕は無言で頷き、それを相槌にして、

「ここに来たくても来れない人もいるでしょうからね」

「そうだな」

 と、気の無い言葉だけが返って来る。

「で、簡単に依頼の内容を説明すると、自分の旦那と子どもに手紙を渡して欲しいって事らしいんだが」

 更に言葉が続きそうだったので、黙って聞いていると、

「――俺の直感なんだけど、多分これ面倒臭いやつだ」

 この仕事を長年やって来ている千広さんだからこそ、依頼内容だけで分かる事もあるのだろう。僕には全く分からないので思ったことをそのまま口にする。

「別に届けるだけの話でしょ?」

「依頼内容はそうだな」

 真っ直ぐに千広さんの目を見つめる。しかし、彼は目が合った瞬間に逸らして小さく溜め息を吐く。

「やる気満々だね?」

「はい!」

「――やっぱり親切の押し売りは悪でしかないかもしれんな」

 千広さんは、再び大きな溜め息を吐きながら小さく呟いた。

 どうして彼がそんなにもテンションが下がっているのか、今の僕には全く理解出来なかった。


「僕にも手紙読ませて貰って良いですか?」

「ん?ああ、ほらよ」

 受け取った便箋の一枚目から目を通すと、確かに千広さんが言った通りの内容が書いてあった。

 そして、二枚目と三枚目はそれぞれ旦那さんと子どもである息子さんへ宛てられたものになっている。

 一応、名前は書いてあるものの、

「千広さん得意のネットワーク検索ですかね?」

 それが一番早いと思った。

「一応、やってはみるけどな」

 本を置いた千広さんは、嫌そうな顔でこちらを一瞥して店の奥へと消えて行った。

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