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手紙(二)

 束になった手紙をレジテーブルに置き、掃除をしていた元の場所に戻る。

 ある種の誘惑を振り切ってほうきを手にするが、やっぱり手紙の内容が気になる。

「いやいや、千広さんが帰って来てから」

 そう自分に言い聞かせるように呟いて、ほうきの毛先を床に当て滑らせる。


 僕がここで働いている事を知っている人にしか手紙は出せないんじゃないかと、ふと思った。そうなると、このお店の関係者である千広さんと米蔵さん。それとお客さん達だ。

 千広さんと米蔵さんがわざわざ手紙を出して僕に何かを伝えるなんて事は無いだろうから、二人の事は候補から除外しても良いだろう。残るはお客さんだけど。

 いつの間にか床を掃く手は止まり、代わりにフル回転していたのは頭の方だった。


 康介君が突然バイトを辞めた理由を手紙にしたためて送ってくれたなんて事は無いだろうし、というかそもそもそんな事をする必要が無いし、寺沢一君からのあの日は突然居なくなってごめんなさいという手紙の可能性もあるだろうけど、宛て名に書かれていた字が明らかに子どものものでは無かった。いや、宛て名だけ親が書いたという可能性もあるけど。

 そんな事を考察する中で、

「あ!」

 一番可能性が有りそうな事を忘れていた事に気が付いた。

 あの日、僕は見送る事しか出来なかったあの二人の事を。

「なんだなんだ、そうか。旅行先からなら絵葉書とかで良いのに。わざわざ封筒で送って来るって事は何だろう?百瀬さんが描いた絵を前に二人で記念写真でも撮ったりしたのかな?」

 想像しては笑みが零れる。


「気持ち悪い顔して何やってんだ?」

 僕が色々と思案している間に帰って来たのだろう。いつの間にか目の前にやって来ていた千広さんがただいまの挨拶よりもまず先に失礼な言葉と共に現れた。

「気持ち悪く無いです。それよりも手紙が来たんですけど」

「手紙なんかいつも来てるじゃないか、電気代の請求書に水道代の請求書、ガス代の請求書って嬉しくないもんばっかりな?」

 店の奥、レジテーブルへと向かう彼は気怠けだるそうに声を上げた。

「そうじゃないんですって。僕宛の手紙が来たんです」

 予想もしていなかったのだろう。千広さんは足を止めて後ろを歩いていた僕の顔を見るなり、

「誰から?」

 眉間に皺を寄せいぶかしし気な表情で言った。

「まだ開けて無いです。千広さんが帰って来てからにしようと思って」

「それはまた殊勝な事で。お前宛なら好きにして良いのに」

 店主から許しが出たので、僕は足早に千広さんの横を通り抜けレジテーブルへと駆け寄った。

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