親切(五)
翌朝、僕はいつものように日課になっている掃除をしていた。
床を掃く前にはたきを使って棚の上の埃を落としていると、食器棚と並んで本棚が立っているのに気が付いた。
「あれ、こんなところに本棚なんてあったっけ?」
何度もここを通ったり、掃除をしているはずなのに今まで全く気が付かなかった。
まあ、骨董品店だけあって物の数だけは無駄に多いので、僕がすべてを把握出来ていなかったとしても全く不思議ではない。店主である千広さんでさえ把握出来ているのか怪しいところだ。
掃除の途中だが、僕は本棚に目を向ける。
骨董品店に置いてある本なんて、一体どういう物なのか少しだけ興味があったからだ。
まず最初に目に入ったのは、一際大きな茶色く汚れた分厚い辞書のような本だった。
元々赤い表紙だったんだろうけど、日焼けや劣化でこんな色になってしまっている。そのせいで本の題名も分からない。僕はゆっくりとその本を掴むと、壊れないように慎重に引き抜きだした。
別に何も変わったことは無い普通の本だった。
こんなところに置いてある本だから、ものすごい値打ちがあるものなんじゃないかと思っていたんだけど、どうやら僕の予想は外れたみたいだ。
とりあえず、中を開く。
あいうえお順で言葉が並ぶ、まるで辞書のような作りになっている。が、普通の辞書では無い事は読んでいけばすぐに分かった。
「自分で言うのもアレだけど、なかなかのベストタイミングなんじゃない?」
何だか嬉しくなり、独り言が零れてしまう。
まずは、サ行を開き、そこからゆっくりとページを進めて『し』までやってくる。が、目的の言葉はもう少し後ろで、どちらかというと『す』に近い。
僕は『しん』と、書かれたページから本を捲る速度を落とし、目的の言葉の所で止める。そして、黙読で何度も読み返し、内容をしっかりと記憶すると、本とはたきを置いて台所へと駆け出す。
朝食を作る千広さんを見つけると、
「千広さん、親切って親を切るって所から出来た言葉じゃないみたいですよ?」
「朝から何言ってんだ?」
「言葉の成り立ちが書かれた辞典みたいなのがお店に置いてあったんです!それに親切が載ってて、親を切るってところから出来た言葉じゃなかったんです」
僕はそのまま続け、
「親ってのは、親しいって意味で分かりますよね?で、問題は切の方なんですけど、これは刃物を直に当てる程近くって意味があるみたいです」
「朝からうんちくご苦労様です。朝飯食う前だけどお腹いっぱいだ」
フライパンで目玉焼きを焼きながら苦笑いを浮かべる千広さん。彼は、慣れた手つきでそのままひっくり返すと、
「まあ、俺の場合は親を切るってより、子を切り捨てたってのが正しいから親切じゃなくて子切だな」
「またそんな事言って」
千広さんの自虐に一つ思った事がある。
「今度、十和子さんに会う機会があったら直接聞いてみますよ。息子さんの事どう思いますか?って」
少し焦げた目玉焼きをお皿に移した千広さんは、
「勝手にしろよ」
と、苦笑いで言っていた。
17.02.09 修正




