親切(三)
僕は机に突っ伏したままの状態で、少しだけニヤけてしまった表情をゆっくりほぐしていた。
「それにしても本当にお客さん来ませんね」
態勢を変えていないので、千広さんにしっかり届いてるかは分からないけれど、今、顔を上げてしまうとニヤけているのがバレてしまうので絶対に出来ない。
「真吾は意外と外に出てるからな?普段、店番してるとこんなもんだぞ?」
「それで成り立ってるこの店が凄くないですか?雇って貰ってこういうのも何ですけど、こんな仕事で給料も出てるし、寝るとこもご飯も出るんですよ?」
「それは俺の台詞だ。骨董品店は俺の店だってのは説明したけど、真吾が雇われてるのは八百万の方だからな」
僕はそこで顔を上げて、
「それって、僕の給料は米蔵さんから出てるって事ですか?」
千広さんは、本から視線を動かさずに、
「俺の分もな?」
まあ、考えてみれば当たり前の話なんだけど、何か物凄く不思議に感じてしまうのはなんでだろうか。
「というか、米蔵さんは何でこんな何でも屋みたいなお店を開いたんですかね?千広さん、雇われ店長なんだから何か知りませんか?」
僕の言葉を受けた千広さんは、大きな溜め息を一つ吐きながら、
「まあ、あの爺さんの自己満足なんじゃないか?」
言って、更に続ける。
「やりたい事があってもどうしたら良いのか分からない人間なんて山ほどいるし、そういう人間に手を差し伸べて少しでも力になりたいとか言ってたような気がするけど、結局自分は何にもしてないしな?」
僕に同意を求めて来る。僕からしたら千広さんもそう大して動いている気はしないんだけど、こういう場合は何て言ったら良いのだろうか。
しばらく考え込んでいると、千広さんから更に言葉が飛んで来た。
「まあ、要は親切の押し売りだよ」
「いやいや、僕は普通に良い事だと思いますけどね?」
「真吾、親切ってどういう字を書くか知ってるか?」
「親切ですよね?親に切るって書きますけど」
僕はテーブルに指で漢字を書きながら確かめるようにして言う。
「そういう事だよ」
「いや、全く分かりません」
僕の冷静なリアクションを見て何度か鼻で笑う千広さん、今日は機嫌が良い様に見える。それならばと思い、
「親に切るで思い出したんですけど、どうして十和子さんは千広さんが自分の息子だって事を忘れちゃってるんですか?」
その直後、彼の顔から表情が消えて行くのが分かった。
どう考えても良い事では無いので、
「あ、やっぱり興味がある訳じゃないんで、言わなくても良いです!」
と、断ってみたが、
「俺が興味あるから少しだけ聞いてけよ」
苦笑いを浮かべてそう返してくれた。
今日は、本当に機嫌が良い。
17.02.08 誤字修正




