親切(二)
「いや、そんなに念を押されると困るんですけど」
話の流れの中で少し気になったから言っただけなのに、そんなに自分の話をするのが嫌なのか。
「でも、自分の勤めてるお店の歴史というか昔話でしょ?興味はありますよ」
「俺が興味無いから止めとくわ」
「最初から話す気無いんじゃないですか」
やる気が無いというか、僕をおちょくってるだけだ。二人での生活にも慣れて来たけど、この人との真面目な話ってのは出来た試しが無いように感じる。
突っ伏した状態から顔を上げたまま、首を回して店の中をぐるぐると見回す。
「なんで、色んな事を忘れちゃってるんだろう」
呟きながら、米蔵さんに言われたことを思い出す。
『どんなに大切だった事でもどんなに親しかった人の事も無差別で忘れてしまうのが、ここなんだよ』
「ここってどこなんですかね?まさかこの店って事は無いですよね?」
千広さんに尋ねているつもりなのだが、彼から返事は無い。
「あれ?って言うか僕の知り合いとかって心配してないんですかね?」
僕は、記憶が無くなって何も覚えていなかったにも関わらず、米蔵さんや千広さん達のおかげで毎日何不自由なく生活出来ている。でも、僕の事を知っている人は、僕が急に居なくなったら心配したり慌てたり探そうとしたりするんじゃないだろうか。そう思い、
「千広さん!」
ただブツブツ言っていても絶対に返事は来ないので、名前を呼んでこちらを見て貰う。そして、
「前に人探せる何かがあるって言ってましたよね?」
僕を横目で見る千広さんの表情が曇る。そして、眉を顰める。
「五十棲さんのお母さん探した時に何かをやりに席立ったじゃないですか」
「なるほど。お前を探してる人がいないか調べてみろって?」
「はい!」
「真吾、お前は勘違いしてるぞ?俺達が作ってるネットワークってのは人を探す為のものなんだ。この人を探してくれ、この人に会いたいって依頼が一番多いからな?迅速に対応する為にそういうものがあるんだ」
彼は更に続け、
「もし仮に、お前が母親の名前とか父親の外見、特徴。そういうものを思い出せたなら探せない事も無いけどな?」
「今のところ、まだ何も思い出せません」
言って、またしても机に突っ伏す。
「別に忘れたままでも良いんじゃないか?無理に思い出す必要も無いだろ?」
千広さんがどんな表情でその言葉を言ってくれたかは分からないけれど、何故か少しだけ嬉しかった。




