親切(一)
今日もお客さんのやって来ないこの店は人気も無くがらんとしている。
僕はそれを良い事にレジテーブルへと上半身を預け力を抜き切って突っ伏していた。
「掃除が終わったら、さっさとサボりか?」
いつもの態勢で本を読む千広さんが隣から冗談っぽく言って来る。
「いや、そうじゃないんですけど、何だかやる気が出なくて」
「それは何だ?恋煩いか?それとも置いて行かれた寂しさか?」
僕は首だけを動かし横目で千広さんを睨む。
この人には心の中を読む力があるのか、見事に言い当てられてしまった。彼が言った通りとは少し違うかもしれないけれど、多分、その両方があったからこそ朝からやる気が出ないんだろう。
「二人は今頃、どこら辺を旅してるんですかね?」
ページを捲る音と共に声が返る。
「俺が知る訳無いだろ?」
それはそうだと納得しながら顔を再びテーブルへと突っ伏す。空気が薄い気がして少し息苦しいので、態勢以外は決して楽ではないけれど、今の僕の気持ちとしてはなんかちょうどいい。
「お前、その態勢苦しく無いの?」
「――全然」
とは、言ったものの数分もすると辛くなってくる。全然と言った手前簡単には態勢は変えられないし、顔も上げづらい。だから、何か良い方法は無いかと考えた末、
「僕がこの仕事を始めてからここに来たお客さん達って、みんな今頃どこで何やってるんですかね?」
顔を上げながら言ってみた。
「百瀬さんと市川さんは旅に出ちゃいましたし、九十九康介君はバイトを辞めて、お兄さんの敦さんはあれから会ってませんし、京香ちゃんも五十棲さんも――。一君に至ってはいつの間にか居なくなっちゃってるし。あ、そうだ千広さんのお母さんの十和子さんはお元気ですか?」
数秒時間が空いてから、
「知らねえ」
簡潔な言葉だった。
「僕が言うのもなんですけど、人によっては物凄く親身になって相談に乗ったり悩みを解決したりしてる訳ですから、もう少し常連というか繋がりみたいなものがあってもいいような気がするんですけどね?」
千広さんは、本から目を離さずに溜め息交じりに、
「俺は骨董品を買いに来る客以外に興味は無いからどうでもいい」
自分の店と雇われている店ではこれほどまでに力の入れようが違うのかと驚いた。
まあ、骨董品店の方にも力が入っているかと言われれば、五十歩百歩という感じはするけれど。
「そもそも何で千広さんがこの店を任せられてるのかが分からないんですけど」
「お前、本当にその話を聞きたいか?」
ちょっと口にした事に対してそんなに責任を負わせられるとは思わなかった。




