道連れ(五)
歩道橋を渡っていると、ちょうど百瀬さんが描いた絵が見える。 広告でも無いのにしっかりとライトに照らされているので夜でもはっきりと目に入って来る。
あのオーナーさんも気前が良いというか、変わった人なんだな。『青春だな』なんて言いながら笑って許可してくれたけど、普通はなかなか出来る事じゃない。
歩道橋を降りてビルに背を向け再び歩き出す。
そこからはほとんど会話らしいものも無く駅に到着した。
会社から帰宅してくるサラリーマンの人やこれから出勤するであろう水商売のお姉さんまで色々な人で溢れている。そんな駅の中へと僕たち二人は入って行く。
アナウンスや人の会話など普段生活している時には気にならない喧騒が今日は少し気になる。だから、いつもよりも少し大きな声で、
「とりあえず、駅まで来ましたけど、目的地はどうするんですか?」
彼女は足を止め、
「分かりません。どこかお勧めの場所はありますか?」
逆に尋ねられて考えるが、おかしな事に気付く。
ここがどこか分からない。いや、ここが駅なのは分かるし、この街に今僕が住んでいるという事も分かる。ただ、街の名前が分からない。更に、この駅からどこかへ行った記憶も無ければ、隣の駅が何て言うところで、どういう路線があり、終点がどこなのかという事も全く分からなかった。
「あの、申し訳無いんですけど、僕も詳しく無くて」
「では、切符売り場に行きましょう。そこで路線図を見ながらどこに行くか決めましょう」
店からここまで結構な距離を歩いて来たが、彼女の旅行に対するやる気は全く減っていないようだった。
切符売り場は意外にも空いていた。
それはそうだろう。電車を頻繁に使う人ならば、翳すだけで改札をスムーズに抜けられるカードみたいな物を持っている人がほとんどだろうし、契約次第ではその中にお金をチャージする必要も無いって聞いたことがある。当然、普通の人なら楽な方に流されて行くに決まってる。
そんな事よりも、
「ここの駅って如月駅って言うんだ」
初めて駅の名前を知った。という事は、街の名前もそうなんだろうか。そんな事を考えていると、
「あれ?」
後ろから声を掛けられた。
「昼間振りだね?」
振り返ると、そこには薄手の白いジャケットを羽織ったラフな格好の百瀬さんが立っていた。
昼間に声は聞いていたけれど、まさかこんなところで会うとは思いもしなかった。それにしても、この人は何故いつもこういう不思議なタイミングでやって来るのだろうか。
「こんな時間に、しかもこんな場所で会うなんて偶然だね?」
「百瀬さんこそこんなところで何やってるんですか?」
「何って旅に出るんだよ」
そういえば、そうだった。
今日のこの流れを作った原因は、この人にあると言っても良いくらいだったのに……。
「で、真吾君こそ何やってるの?」
「僕は――」
そう言いながら隣に立つ市川さんに目をやる。彼女はそれだけで察してくれたのか、小さく頭を下げ
ると、
「市川三久と言います」
自己紹介をした。




