道連れ(四)
「と、いう事だそうだ」
全く表情を変えずにうちの店主は言っているが、市川さんの話を全て納得して仕事を受けているのだろうか。言っておくが、彼女の旅行について行くという話もこの世界が市川三久の夢という話も僕は何も受け入れていない。
まあ、少々不思議ちゃん思考のところはあるけれど、話し方や仕草などはとても丁寧だし、見た目も美人なので一緒に旅行に行きたいと言われればやぶさかでは無いけれど、
「夢って事を堂々と宣言したら、急に不安になって来てしまいました」
僕の思考を破って市川さんが言った。
「いつこの夢が終わってしまうか分かりませんし、逆に目が覚めてしまう事もあるかもしれません。急いで旅行に行きましょう、真吾君」
理由はどうあれ、名前を呼ばれるとドキッとしてしまうのはどうしてなのだろうか。
「もう夜になりますよ?」
「とりあえず、駅に行って電車に乗りましょう。後は乗ってから考えます」
意外と行動派な上に無鉄砲と来たもんだ。
僕の中の天使と悪魔が、彼女とご一緒するのかどうかで第一次脳内戦争を勃発させているが、
「まあ、真吾も言った通りもうすぐ夜だからな」
千広さんからの助け船がやって来た。
「夜道は危ないからな。真吾、しっかりついて行ってやれよ」
おい、どうなってんだ、この人の頭の中は。
この言葉には、市川さんも大喜びでこの店にやって来て一番と言って良い程、感情を爆発させている。雇い主の許可が下りた訳だから、旅行に一緒に行ける人間を確保したって感じだろうか。
そんなこんなで、反論する暇もなく店を出された僕と市川さんは、街灯の照らし出す夜の道を駅を目指して歩いている。
空の色は夕方のグラデーションから夜のグラデーションへと変わり、西の方から徐々に青が濃く暗くなっていくような綺麗な色をしていた。そして、うっすらと星が瞬き始めている。
「市川さん」
夢が叶う嬉しさからなのか、僕より一歩半ほど先を歩く彼女に声を掛けてみる。
「三久でいいですよ」
「じゃあ、三久さん。さっきの夢の話なんですけど、逆だとは思わなかったんですか?」
僕の疑問に足を止める彼女に合わせて、僕は一歩半ほど足を進めて隣へと並ぶ。
「今、この瞬間が現実で、入院しているのが夢だとは思わなかったんですか?」
彼女は笑顔を崩さぬまま、
「そうだったら素敵ですね」
と、だけ呟いて再び足を進める。
彼女が見せてくれた笑顔は、店にいる時と同じだったけれど、何故か少しだけ切なそうに見えた。
記憶が無いのは、僕も彼女も同じなのに、考え方がこんなにも違うなんて思いもしなかった。
僕は今いるここが現実だと疑いもしていないし、申し訳ない話だけれど、この世界が夢だという市川さんを少しだけおかしな人だと思っている。
少しでも何かを思い出せば僕の考え方も少しは変わってくるのだろうか。
「夢か――」
そんな事を呟きながら本日二回目となるお仕事をする為に駅を目指して歩みを進めた。




