道連れ(三)
「あの、最後のお願いってどういう意味ですか?」
言い出した千広さんをしっかりと見つめ、問いただすように尋ねる。しかし、彼はすぐに視線を逸らし、自分の指の爪をいじりながら知らん顔をしている。
そんな僕たち二人の悪い空気を察してくれたのか、
「あんまり店長さんを責めないであげてください」
市川さんの言葉が間に入ってくれた。
「私が自分で言い出したことなんです」
「と言うと?」
「はい。真吾君が帰って来る前に店長さんには話をしていたんですけど、実は、つい最近まで身体を壊して入院していたと思うんです。こんな言い方をすると変だと思われるかもしれませんけど――」
彼女の次の言葉が出て来る前に僕が割って入った。
「記憶が無い?」
市川さんは豆鉄砲を食らったような表情をしたまま、
「あれ、もしかしてお聞きになってました?」
「そうでは無いですけど、僕もここに来るまでの事をほとんど覚えていないので、もしかしたら一緒なのかなと」
それを聞いて彼女は再び笑顔を作る。
「まあ、ではやっぱり二人でどこかに旅行に行きましょう。同じ境遇の者同士楽しいかもしれませんよ?それに場所を変えれば何か思い出すかもしれませんし」
確かに彼女の言っている事も一理あるとは思った。しかし、今日知り合ったばかりの男女がすぐに旅行に行くというのもおかしな話である。僕は少しでも話題を変えようと、
「で、最後って言うのは?」
逸れてしまった話の道筋を少々強引ではあるが、元に戻した。
「病床の私は今、意識の無い状態でベッドに横になっていて、これはそんな私が見ている夢の中の世界なんじゃないかと思ってるんです」
唐突な不思議ちゃん発言にちょっと驚いた。
「あ、えっと多分違いますよ。なんて言ったら良いか分かりませんけど、僕がここにいるって事はこれが市川さんの夢じゃないって事だと思うんで」
自分で言っていても良く分からない。
斎藤真吾という人間、つまり僕自身に意識というか人格というか、まあそういうのがあるという事は、市川さんが見ている夢では無いという事になる。と、思う。自信が無いのは、そんな素っ頓狂な話を大真面目に否定するとは思いもしなかったからだけど、きっとこんな理由では納得はしてくれないだろう。
「でも、真吾君が私の夢の中の登場人物の一人かもしれないじゃないですか?」
これを一体どうやって否定したら良いんだろう。黙ったまま考えていると、市川さんは更に続け、
「だから、私は神様が最後にくれたこのプレゼントでやりたかった事を思いっきりしたいなって思ってるんです」
「――それが旅行ですか?」
市川三久は何も言わずに笑顔を作って一度だけ頷いた。




