両天秤(五)
「一君の手伝いをさせてください」
僕は高らかに言い切った。それを聞いて三人は文字通り三者三様のリアクションを返してくれた。
まず、千広さんは僕の言った言葉に驚いたような顔をし、一君は笑顔を僕に向けてとても喜んでくれている。そして、最後に米蔵さんは自分の胸の前で手を叩いて軽く拍手しながら、
「お、分かってるじゃねえの坊主。なあ?千広。これでお前も引退出来るんじゃねえか?」
なんて事を言っているが、そんな話もまた僕の知らない話だ。引退って何?千広さんがこの仕事辞めるって事?
今回の一件で僕が疑問に思ってる事は一つも解決しないのにも関わらず、また一つ分からない事が増えてしまった。まあ、僕も馬鹿真面目に納得するんじゃなくて、素直に聞けば良いのにとは自分でも思うけど、千広さんが話の流れをぶった切って、
「なんで二択になってんのかは分からんが、その少年の依頼を手伝ってやるつもりならさっさと行った方が良いんじゃねえか?」
そう言って時計を差す。針はいつの間にかお昼を過ぎ、話に夢中になっている間にこんなにも時間が進んだのかと驚いてしまう。
「爺もさっさと帰れ。アンタも忙しいんだからこんなとこで油打ってる暇無いだろ?」
千広さんにそうせっつかれ米蔵さんは渋々と言った表情で店を後にし、
「じゃあな、坊主。しっかり仕事しろよ」
そう言って姿を消した。
僕も千広さんの言葉通り外に向かおうかと思ったが、
「じゃあ、一君その探してるお兄さんの事について聞きたいからここでもうちょっとお話し聞いても良いかな?」
彼の目線に合わせるようにして言う。
「はい。こちらこそお願いします」
何て言うか、この子はまだ幼いのにしっかりとした受け答えをする子だな。きっと両親の躾がしっかりしているんだろう。そう思い、あまりしっかりしていないであろう人に視線を飛ばすと、
「何を見てんだよ」
と、悪態をつかれてしまった。
だが、僕もここで働き始めてそろそろ慣れて来たので、無視をして一君との話を進める。
「一君がお兄さんと出会った公園って言うのはどこにあるか分かるかな?」
早速、今回の依頼の核に迫ってみるが、彼は首を横に一生懸命振っていた。本当にここにやって来る人は物忘れが多くて困る。まあ、人の事は言えない訳だけど。
それに米蔵さんが言ってた事も気になる。『どんなに大切だった事でもどんなに親しかった人の事も無差別で忘れてしまうのがここなんだよ』と。ここという言葉がこの店を指すのかは分からないけれど、この店に来る人達の状況を目にすると、疑う余地は無いかもしれない。




