両天秤(三)
もう少し詳しく話を聞きたかった僕は、すぐに掃除道具を片付けて来ると、
「もし良かったら向こうでコーヒーでも飲みながら話しませんか?」
レジテーブルを指差して米蔵さんに言った。彼もそれに賛成してくれたが、唯一店長だけが、
「いや、だから、客じゃないからそんな事しなくて良いって言ってるだろ」
気に入らないのか、一人騒いでいる。
「ちょうど先日、良いコーヒー豆を買って来たんで、すぐに入れますよ」
米蔵さんをレジテーブルまで案内して店の奥へと向かう。
「おい、それは別にこの爺に飲ませる為に買った訳じゃないっての」
言って、僕の後を追い掛けるようにして千広さんも台所へとやって来た。
「コーヒーくらい別に良いじゃないですか。千広さんがあんまり好きじゃないってのは聞いてましたけど、一応偉い人になるんでしょ?雇われてる訳ですから」
先程まで豆として存在していた粉になったコーヒーを見つめながら言う。
「別に俺だって絶対飲ませたくないって訳じゃないけど」
「子どもですか、貴方」
「うるせえな、ガキに言われたくねえよ。それに頼まれて雇われ店長やってんだから、実際どっちが偉いかって言われたら俺の方なんじゃねえの?」
「いや、どう考えても違うでしょ」
そんな会話をしながらコーヒーを作り米蔵さんの待つテーブルへと持って行った。
三人でコーヒーを嗜んでいると、
「話しは変わるが、俺がせっかく紹介してやった客を早々に帰しちまったらしいな?」
米蔵さんが呟いた。
きっと先日この店にやって来た十和子さんの事だろう。京香さんも協力する前に帰らせてしまったが、あれは千広さんが他の人に紹介するって話だったし。
返事が来ないのを確認して彼は更に言葉を続ける。
「せっかく久しぶりの親子対面だっていうのに、どうせお前何も話して無いんだろ?」
「え?」
意外過ぎる話に疑問符付きの言葉がそのまま零れてしまった。そして、コーヒーカップを持っていたまま固まってしまったが、二人はそんな僕を無視して話を続けている。
「覚えてねえのに、親子もくそも無いだろ?面倒だったから適当な理由付けてさっさと帰って貰ったよ」
「俺からのささやかなプレゼントだったんだけどな」
「あんたのそういうところが昔から邪魔臭いんだよ」
話が途切れたタイミングで、
「いや、ちょっと待ってください。親子って何ですか?」
「鈴木十和子は、鈴木千広の母親って話だ」
米蔵さんが説明してくれる。そして更に、
「久々の再会の為に俺が手を回してやったって言うのにコイツが恥ずかしがってふいにしやがったって訳 よ」
「いや全く恥ずかしがってるとか無いから、それに覚えてないんだから、突然俺が息子だよとか言っても気持ち悪がられるだけだろ」
一体どういうことなのか、訳が分からない。
17.01.29 句読点位置調整




