両天秤(二)
ほうきと塵取りを使ってゴミをまとめていると、今日初めてのお客さんが顔を出した。
引き戸を少し開け、顔だけを入れて中を覗き見るようにしているのは、久しぶりに会うあの人だった。
「いらっしゃいませ」
千広さんは当然、本を読んでいる為気付くのが遅いので、僕が先に挨拶をすると、
「おお、あんときの坊主か?しっかり仕事してるじゃねえか」
声の主は、神様こと米蔵さんだった。あの日、僕が初めて出会った時の格好とは打って変わって、白のカッターシャツに黒のチノパンという出で立ちで店の中へと足を進める。
ほうきと塵取りを片手に彼に寄って行くと、
「んで、こっちは相変わらずのこの調子かい」
米蔵さんの視線の先にはレジテーブルに向かって本を読む千広さんの姿があった。彼は、米蔵さんが来ている事に気付いていて無視をしているのか、はたまた本当に気付いていないのかは分からないが、こちらに対して何のリアクションも起こしていない。
「お久しぶりです。米蔵さんにここを紹介して貰って本当に助かりました」
ひとまず、店主は置いておいて長い間言えなかったあの日のお礼をする。
この感謝の気持ちは何て表わしたら良いのか分からないくらい大きいもので、こんな簡単な挨拶みたいな言葉で良いのか迷ったが、本当に何て言って良いのか分からないのだから、仕方がなかった。
「元気そうで良かった。あん時は死にそうな顔してたからな」
そう言って大きな声で笑ったかと思うと、
「しかし、仕事はあってもあんなのが上司じゃ大変だろ?」
彼の視線は再び千広さんへと向かう。それに同調するように僕も視線を向けながら、
「まあ、自分は何にもしませんけど、僕はお世話になってる立場なんで」
苦笑いを浮かべて言うと、
「何もしなくて悪かったな」
遠くからそんな声が聞こえて来た。
「なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃないですか。米蔵さんがご来店ですよ」
千広さんは、やっと本を閉じてテーブルの上に置くと、不満気な顔で、
「別に客じゃないんだから相手しなくていいぞ」
気持ちの込もっていない平坦な口調で言った。
僕がどういう意味か分からずに、二人の顔を交互に見ていると、
「あいつがここの雇われ店長だってのは聞いてるか?」
米蔵さん側から言葉が来た。
そういえば、ここを訪ねた初日にそんな説明をされたような気がするな。そう思い、首を縦に振っている と、
「骨董品店は俺の店だぞ」
いよいよ、面倒臭くなったのか千広さんがこちらへと足を進めながら言って来た。
「そうだな。でも、この坊主は骨董品店のアルバイトじゃねえだろ?つまり、上司は雇われ店長で正しいじゃねえかよ」
その言葉を受けた雇われ店長は、図星を突かれたのか特に反論もせず、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
米蔵さんに十和子さんと、千広さんは年上の人とあんまり相性が良くないのだろうか?そんな事を考えていると、
「その雇われ店長を雇ってんのが俺だよ」
千広さんがあんまり好きじゃないって言ってた気がするけど、こういう事だったんだな。
17.01.29 句読点の位置調整




