両天秤(一)
本日もいつものように店内をほうきで掃いて回る。
窓掃除が終わり、棚や机の上に置いてある骨董品の壺や茶碗にはたきをし、千広さんから教わった通り、掃除は高い所からというのもしっかり守って、最後の残りで掃き掃除をしている。
ここにやって来てからの僕の午前中の日課であり仕事だ。
店主はというと、今日もいつものと同じようにレジテーブルに頬杖をつきながら本を読んでいる。
「そういえば、昨日見に行って来たんですけど、百瀬さんの絵が完成しましたよ」
僕の声に、本から視線をずらすこと無く、
「ああ、いつか来た絵を描きたいって言ってた子ね」
「千広さんって、過ぎた話は全く興味無いんですね」
「そんな事も無いけど、まあさ、やりたがってた事が出来たなら良かったなって話だよ」
そうは言っているが、全く興味は無さそうだ。でも、僕はどうしても昨日見て来た絵の感想を言いたかったので、彼の反応は無視して勝手に続ける。
「そうですよ。あんな所に絵が描けるなんてなかなか出来る事じゃないですからね。それに夢だっただけあって相当な力作だったんですよ」
ほうきを動かす手を止めてまで説明しているのだが、無駄のようだ。
「天使の羽が生えた男の子の絵なんですけどね?青い空を白い羽のコントラストがとても綺麗で、あんな場所にあんな絵を置いちゃったら交差点が大変になっちゃいますよ」
「んで、その百瀬君におめでとうは言ったのか?」
「あー……っと、それが昨日は会えなかったんですよね。まあ、今までは絵を描いていた訳ですから、あそこに行けば会えるってのが当たり前だったんですけど、絵が完成しちゃったから――」
そこまで言ってふと思う。
「連絡先知らないんですけど、どうやって会ったら良いんですかね?」
千広さんは、鼻で笑いながら、
「俺が知るかよ」
なんて言っていた。
まあ、そんな事は言っても、康介君の働いているハンバーガーショップに行けば、ばったり会えるだろう と、この時の僕は楽観的に考えていた。
「と言うか、この店って骨董品を買いに来る人が一切来ませんけど、売り上げとか大丈夫なんですか?まあ、厄介になってる身でそんな心配するなって話かもですけど」
この話には食い付くようで、本を閉じてこちらを見ながら、
「給料日にはちゃんと金が入るようになってるから気にするな。そんな事より掃除をしっかりやれよ」
僕の手が止まっている事を言っているんだろうけど、指示ばかりでほとんど何もしていない人に言われたくはない。
17.01.28 句読点の位置修正
17.02.02 サブタイトル修正




