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焼却(五)

 確かに十和子さんは、日記帳が見つからなければこの世に無いと思う事にするとは言っていたけど、

「それは、自分の中でそういう事にしてしまおうって話でしょ?」

「いや、本当にこの世に無いんじゃないか?」

 うすら笑いを浮かべて言う千広さん。彼女が帰った途端にいつもの調子を取り戻したように見えた。

 二人が話している様子を見ても最初から知り合いだったようには見えなかったし、どうして千広さんがあんなにも様子がおかしかったのかは分からない。そして、彼の言った言葉の意味も分からない。だから、

「どういう意味ですか?」

 素直に聞いてみることにした。

「そのままの意味だよ。分かるだろ?『この世に無い』って意味が」

「意味は分かりますけど――」

 この世に無いという言葉の意味は分かる。

 色々と頭の中で考えてみて、

「じゃあ、日記帳は本当に燃えちゃったって事ですか?」

 答えを出したが、

「そうなるのが嫌だったから帰したんだよ」

 今度は困り顔で言われた。

 もう何を言われても分かる気がしなかった。


「はい。この話は終わり。さてと、今日の夕飯は何にするかな?久しぶりにカレーにでもするか?」

 彼は読んでいた本をレジテーブルに置くと、上機嫌で鼻唄交じりに店の奥、台所の方へと消えて行った。


「日記帳が燃えるのが嫌だったから、無理やり言って納得させて帰らせたって事だよな?」

 言ってはみたものの何も考え付かない。

 そもそも分からない事が多過ぎるのが問題だ。

 まずは、今日の千広さんの様子がおかし過ぎること。最初は依頼人である十和子さんが店にやって来ることが関係しているんじゃないか、と思っていたんだけど、すごく関係があるようにはあんまり見えなかった。でも、彼女が帰ってからの様子を見ていると――関係があるような気もする。

 次に、十和子さんが日記帳の場所を覚えていない事。これは、僕自身や今までやって来た依頼人の人にも関係あるのかもしれないけど。

 で、最後に日記帳が燃えると嫌だと言った千広さんの発言。これに関しては、火事とかそういう事の心配だったんじゃないかなと思っている。というか、それくらいしか関連性が見い出せない。


 分からない事はどうやったって分からないんだ。

 また機会があったら千広さんに聞いてみればいい。彼の機嫌が良い時にね。


 そんな事より、今は夕飯のカレーを楽しみにしよう。

 僕は、何だかんだあってテーブルの上に置きっぱなしになっていたコーヒーカップが置かれたままのお盆を手に取り、カレーの準備をしているであろう千広さんの元へと向かった。

17.01.27 誤字修正

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