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焼却(四)

「別に暗証番号書いてあってもキャッシュカードとか通帳が無きゃ意味ないでしょ?それに誰の日記か分からないんだから、結局暗証番号だけ分かったところで」

 僕が言うと、千広さんは指を差して、

「確かに。つまり、何が書いてあったとしても個人を特定出来る物が無ければ大丈夫って事よ。もう少し肩の力を抜いた方が良いんじゃないですか?気にし過ぎても身体を壊したりあんまり良い事無いよ?」

 十和子とわこさんに優しく言うが、彼女からの返事は無い。

「真吾も何か言ってあげなさい」

 突然話を振られたが、当然何も用意していないので、

「あーっと、そんなに燃やしてしまいたい程の日記には何が書いてあったんですか?僕が日記書いてたとして、無くすことがあっても中々燃やしたいって思うほどの内容って書かないような気がするんですけど」

 彼女は渋々と言った顔でゆっくりと口を開いた。

「ポエムです」

「おおぅ」と、声が出そうになった。

 何故なら『ポエム』と、聞いて色々考えてしまったからだ。

 もし自分の日記帳にそんなものを書いていて、しかもそれが無くなってしまったと思うと、あんな声も出そうになるだろう。


 しかし、千広さんは僕とはまた違った感想を持ったようだった。

 別に何かを言うという訳では無いが、彼女、十和子さんが俯いている事を良い事に、そっぽを向いては肩を震わせて一生懸命笑いをこらえている。

 お客さんを目の前にしてよくもまあ、とは思ったが、ここで僕が何かを言ってしまうと、顔を上げた十和子さんに千広さんの姿を晒してしまう事になるので、黙ったままでいる。


 しばらくして、笑いの収まった千広さんが、

「ポエムなら尚更、放っておけば良いじゃないですか。それこそ誰が書いたか分からない訳ですから、仮に目の前で誰かに拾われて読まれてしまっても知らん顔をしていれば良いんです。」

「――でも」

 と、彼女は言うが、

「どこにあるのか見当も付かないこの状況で日記帳を探すよりも、場所だけじゃなくて日記自体も忘れてしまった方が楽なんじゃないですか?」

 畳みかけるように言って、十和子さんを納得させる。

「貴方が恥をかきたくなければね?」

 最終的にこの言葉がとどめになったようで、彼女はしばらくの沈黙の後、

「家に帰って部屋中探してみます。もしそれで見つからなければ、元々わたくしが書いていた日記帳なんてこの世に無かったと思うようにしますわ」

 何かが吹っ切れたのか清々しい笑顔を見せて、帰って行った。


「結局、日記帳はどこに行っちゃったんでしょうね?」

 カップを片付けながら隣で本を読む千広さんに聞いてみる。彼は視線を一切そこから動かさずに、

「本人も言ってただろ?この世に無かったって」

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