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焼却(二)

 小雨の降る中、足元に広がる水たまりに細心の注意を払いながら歩いて行く。

 コーヒー豆を買いに行くなんて、僕の人生で初めての出来事じゃないのかな?

 ほとんど覚えていない記憶を思い出しながら、そんな事を考える。


「大事なお客さんが来るっぽいけど、そういう人に出すコーヒーなら自分でちゃんと選んだ豆を使った方が良いんじゃないかな?アルバイトにおつかい行かせて変な豆買って来たらどうするんだ」

 自分で呟いてふと思う。

 納豆とか小豆とかさやえんどうとか買って行ったら何て言われるかな?


 なかなかの勢いで怒られそうだから、冗談だとしても止めておこう。


 僕は店から一番近くにあるスーパーへと向かい、千広さんの指示通り、高いであろうコーヒー豆を買って帰宅した。すると、店の中には見知らぬ人影が一つ見えた。すぐに、それが今日訪ねて来るお客さんだと分かったが、その人影は意外にもやや年齢を重ねた女性だった。


「いらっしゃいませ」

 店の中央まで進み、レジテーブルに向かって座っている後姿のお客さんに挨拶をした。彼女は僕の声を聞いて振り返る。茶色に染められた髪の毛と薄化粧された顔、耳には少々長めのイヤリングが動く度に揺れている。

 外は雨が降っているのに傘を持っている感じは無く、足元も濡れてる感じがしないところを見ると、車で店の前まで来たのだろう。

「こんにちは。今日はお世話になりますね」

 彼女はそう言って小さく頭を下げた。

 千広さんの慌て振りから想像していた人物とは似ても似つかない程、おおらかで優しそうな雰囲気のマダムだった。


「あ、こちらこそよろしくお願いします」

 と、だけ返してスーパーの袋を店の裏、台所へと持って行く。

 僕の後を何故か千広さんもついて来るので、

「コーヒーくらい僕が入れますよ?」

「いいから、さっさと奥行け。奥に」

 そんな言葉に促されるまま店の奥へと行く。


 とりあえず、コーヒー用のポットをコンロに掛けると、

「あの人が依頼人の鈴木十和子すずきとわこさんだ。どんな依頼をしてくるかは分からんが、とりあえずお前が話を聞いてやってくれないか?コーヒーは俺が責任持って入れてくから。な?」

 やっぱり今日の千広さんの様子はおかしい。と、思いつつも、

「分かりました」

 と、だけ返して店の方へと一人戻った。


「今、コーヒー入れてるので先にお話し聞かせて貰ってもいいですか?」

 椅子に腰を下ろすなり尋ねる。

 女性は二度頷いてからゆっくりと口を開き話し始める。

「今朝、自宅の近くにある神社にお参りをして、おみくじを引いて来たんですけどね?」

 何の話かは良く分からないけど、とりあえず黙って聞いてみる事にする。

「失せ物出ず、だそうで」

「うせものでず、ですか」

「はい。わたくしには毎晩寝る前に欠かさずやっている事があるんですけどね?その日あったことを簡単に日記のような物に書き記しているんです。もう何十年もやっている事なので習慣みたいになってしまったんですが、気が付いたらその日記を無くしてしまって――」


 女性は頭を抱えるようにして俯いてしまう。

17.01.24 加筆修正

17.01.28 誤字修正

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