焼却(一)
昨日の深夜からシトシトと音を立てて降り出した雨が、午前中の掃除を始めたこの時間にも降り続いている。しばらく良い天気が続いていたが、今日は生憎の空模様。
生憎なんて難しい言葉を使っているが、詳しい意味は分かっていない。そんな風に使っている言葉はいくつもあると思うけど、きっと生憎ってのは良い意味では無いと思う。
でも、生憎なんて言ったら雨が好きって言う人には怒られるだろうな。
そんな事を考えながら、店の中をほうきで掃いていく。
どんなに良い天気が続いていたとしても、この店にはお客さんがやって来ない。こんな天気の日は尚更だ。
心なしか外の道路を歩く人の姿も少ないような気がする。
それが原因なのかは分からないが、千広さんも朝から口数が少なく、あまり機嫌は良くなさそうである。
「もう少し寒くなったら雪になるのかな?」
窓の外を眺めながら呟く。
しばらくして二階からドタドタと実に行儀の悪い一段飛ばしで駆け下りて来る店主が、
「おいおいおいおい。今何時だ?」
そう叫びながら店舗スペースである一階へと降りて来た。
昨日から雨が降っているので多少はいつもより気温が高いとは思うが、あんなにも額に汗を滲ませる程では無い。そして、引きつった表情にはいつもの余裕さは微塵も無く、本当に同一人物なのかと疑わしくなるレベルだ。
「もうすぐお昼ご飯にでもしようかと思っている時間ですけど?」
珍しく慌てる千広さんが面白かったので、少しだけおちょくってみる。が、
「って事は、まだ十二時は回ってないんだな?」
「あ、はい」
いつもならば人をおちょくるな。とか言って軽く頭をこづかれたりするのだが、完全にスルーされた事に僕の方が驚いてしまってちゃんとリアクションが取れなかった。
この人は、何をそんなに慌ててるんだろう。
一階まで降りるなり、床やレジの周りをじろじろと見つめ、
「よし、掃除はしてあるな。あとは――」
そう言いながら台所、店の裏へと消えて行く。
余程大切なお客さんがやって来るのか、それとも逆らえないような恐ろしい人物がやって来るのか、どちらにしても少し面倒臭そうで嫌だな。
「おーい!」
そんな声が奥から聞こえて来る。
「コーヒーの豆ってもっと良いの無かったか?」
普段使っているコーヒー豆を保存しておく瓶を片手に持ち、千広さんが現れる。
「そんなの隠してあったんですか?僕、初耳なんですけど」
「ん?あれ?そうだっけ?じゃあ、無いのか」
嫌な予感がした。
「ちょっとおつかい行って来てくれ。いつもより高めの豆な?」
少しは今日の天気を考えて発言して欲しかった。
店主の頼みを断れる訳も無く、僕は雨の降る中、傘を差しておつかいへと出掛けるのであった。
17.01.29 誤字修正
17.02.02 サブタイトル修正




