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告白(五)

「仕事中に寝てるなよ?」

 店の主である千広さんに言われ我に返る。

 まあ、そうだよね。現実ってのはそんなもんなんだ。甘い話なんて無ければ、甘酸っぱい話なんてのはもっと無いのだ。


 そんな調子で呆けている僕を置いたまま話は進んで行く。

「でだ、こちら依頼主の七尾京香ななおきょうかさん。まあ、依頼内容についてはさっき自分の口から言って貰ったけど、改めて説明すると、好きな人への告白のお手伝いとなるんだけど。あ、相手の人の名前聞いてなかったね?」

 問われた彼女は、店を訪ねて来た時と同じようにうつむいて口をつぐんでしまう。


「そんな直球で聞いたらさすがに答えられませんよ」

 太々《ふてぶて》しいおっさんが年端もいかない女の子をまるでいじめているかのように見えてしまって、口を挟まずにはいられなかった。

「いや、だって依頼の柱でしょ?相手が誰かって」

 それはその通りで疑う余地が無いのは分かってる。分かってるけども、

「デリカシーとか乙女心とか知らないんですか?」

 言ってやった。

 彼女が恥ずかしがってるのは間違いない訳だし、好きな人の名前を言えなんて今日会ったばかりのおっさんに言われたら、僕でも口をつぐんで俯いてしまうだろう。

「そんなもん知らないねー!告白するんだから相手が必要だろうが。まあ、真吾じゃない事は分かってるけどな?」

 憎たらしい顔で言って来るこのおっさん、やっぱり気付いてやがった。顔に腹が立って睨み付けるように彼を見る。そこで、

「ごめんなさい」

 京香さんが顔を上げ必死に口を開いていた。

 僕と千広さんは、言い争いを止め彼女の方へと視線を向ける。

 上げた顔を今度は下げて、

「ごめんなさい」

 再び謝ると、

「好きな人の名前を言うのは恥ずかしいです。ですけど、違うんです」

「違う?」

 僕の質問に答えようとしたのか、それとも元々話そうと思ってたのかは分からないが、

「もしかすると、もっと恥ずかしい事かもしれません。私、覚えていないんです。好きだった人の名前も顔も全部――」


 衝撃的な告白だった。だったけれど、僕自身も自分の事をほとんど覚えていない。


「でも、好きな人がいたって事は覚えてるんだよね?」

 彼女は小さく頷く。

「じゃあ、こうしよう。告白の手伝いの前に好きだった人の事を思い出す手伝いをさせてよ!」

 最初、彼女も困惑していたが、徐々に表情が明るくなり、

「はい、お願いします!」

 素敵な笑顔で返事をしてくれた。


「盛り上がってるとこ悪いんですけど、京香さんの今回の依頼はこの店では受けられません。うちよりもっと頼りになる専門家がいますので、そちらを紹介させて貰うという方法を取らせて頂いてもよろしいですか?」

 千広さんの冷たい声が店に響き渡っていた。

「でも僕が――」

「真吾がいくら頑張っても出来ない事はあるだろう?彼女の記憶を思い出させるなんて簡単に出来ると思うか?」

 そう言われ、何も返す言葉が見つからなかった。

 やってみなけりゃ分からない。とも、言えなかった。


 彼女、七尾京香さんが好きだった人、ずっと思っていた人。そんな大切な記憶を思い出させる。それが出来なかった時、ただ謝って終わりに出来る程簡単な事では無い。この依頼の責任の重さは僕が考えているよりももっと重たいものだった。


「ごめん」

「謝らないで下さい。専門家の人がいるならそこを教えて貰えるだけで十分ですから」

 彼女は再び笑顔を作ってくれた。

17.01.19 誤字修正

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